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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

33(sideクテシアス)

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 ◇


 人間たちの国では個体のスキルを見る神殿があるみたいだが、魔界にはそういう施設がない。

 なので魔法陣スキルの有無は、魔法陣を作る円形が出せるかどうかで、判断する。

 魔法陣スキルはレアなスキル。
 戦闘系のスキルが多くなる魔族において、器用貧乏なこのスキル持ちは少ない。

 元々人口の少ない魔族でも上位の種類で、尚且つ適性のある魔族しか取得できないものである。

 魔界中の若い魔族が一緒くたに集まるこの魔法学園の生徒では、たったの二十人のみだ。

 若いと言っても、年齢の幅は広いのにだぞ? 生後一年から三十年くらいまで、様々。それでも二十人。

 だからそれだけ、能力の高い人材なわけで。誇り、と言うの名のプライドもある。


「安全第一で、丁寧に。時間をかけてもいいから、きちんと完成した陣を描くように心がけてほしい。事故が一番怖いからな」


 教室の何倍も広々とした学園の裏手にある魔法実技用グラウンド。

 グラウンドに集まるのは、魔法陣スキルもちの学園屈指の優秀な生徒たちだ。

 その中の一人である俺──マンティコア魔族のカイト・クテシアスは、剣呑な瞳で低く柔らかに語る男を見つめる。

 生徒の群れの前で実技テストの説明をするのは、グリフォール魔族の教師──シャウルー・アッサディレイア。

 通称、アディせんせぇだ。
 またの名を、二足歩行型魔法陣辞典。非公認。

 さっぱりとした黒い短髪に、真一文字に引き結ばれた唇。
 すっと通った鼻梁と兼ね合い、端正にまとまった顔立ちの、硬派な男前に見える。

 どちらかと言うと取っ付きにくい容姿だが、どこかのほほんとした緩い瞳が印象的な、変わり者の臨時教師だ。

 ──せんせぇとの出会いは、数日前。

 貴族や地位が高い者が多い俺たちの親を気にして眠たい授業ばかりする、臆病な前任の魔法陣学教師が飛んだ。

 その代わりにやってきたのが、アディせんせぇである。

 初めはつなぎの教師なんてどうせ馬鹿なやつなんだろうと侮り、本気で強くなりたい俺達は、結束して追い返す算段をつけていた。

 学会に論文を載せているわけでもない、ぽっと出の教師だ。

 少し難しいテストをこじつけて振れば、怒るか逃げるか、とにかく教師面できまいと。

 力が全ての魔族。強さを求めて当然だ。それを与えられない者は不要。

 そういう理由での嫌がらせだった。
 有り体に言えば、無茶振り。

 なのにアディせんせぇは、優秀とは言えひよっこの俺たちじゃあ二重がけすら不可能な魔法陣の重ねがけを、八重にも重ねてやってのけた。

 ありえないだろぉ? 俺たちはみんな、馬鹿みたいにぽかんとしたさ。

 けれどあれじゃ足りないか? なんて肩をすくめるものだから、どんだけ極めたんだと気持ち悪くて仕方がない。

 でも接していくにつれて、せんせぇはしっかりと努力をした人なんだと、わかった。

 俺たちの名前を全部覚えていたのも、教師とはそういうものだと聞きかじったせいで、馬鹿真面目に一夜漬けをしたからだ。

 知識も実力もそれだけ血反吐を吐いて覚えたんだと、あっけらかんと笑っていた。

 それは正直、俺たちはドン引きだけどよぅ。魔法陣全部脳味噌直焼き付けって、死ぬだろ……。

 痛みでのたうち回った挙句、窓から飛び降りるレベルの頭痛に苛まれる方法。

 マジで正気ならやらない。ドマゾ。

 魔族は特に回復魔法が不得意だから、そういうどうしようもない内側の痛みが嫌いだ。

 手足が吹き飛んでもまぁサクッと治すが、怪我じゃないものの治療は治癒能力のある魔族じゃないと駄目なんだよ。

 てかそも、魔法陣の頭痛は治らねぇ。脳細胞書き換えてるし。

 それを全部。
 拷問かバケモノか、じゃなければとんでもないマゾヒスト。

 なので内緒だが、アディせんせぇのあだ名はもう一つ〝変態マ法陣マニア〟というのがあるのだ。

 マ法陣マニアとはもちろん、マゾヒスト魔法陣マニアの略だ。

 人畜無害な魔法陣特化の変わった男。
 それが俺たちの見解である。



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