597 / 901
十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
33(sideクテシアス)
しおりを挟む◇
人間たちの国では個体のスキルを見る神殿があるみたいだが、魔界にはそういう施設がない。
なので魔法陣スキルの有無は、魔法陣を作る円形が出せるかどうかで、判断する。
魔法陣スキルはレアなスキル。
戦闘系のスキルが多くなる魔族において、器用貧乏なこのスキル持ちは少ない。
元々人口の少ない魔族でも上位の種類で、尚且つ適性のある魔族しか取得できないものである。
魔界中の若い魔族が一緒くたに集まるこの魔法学園の生徒では、たったの二十人のみだ。
若いと言っても、年齢の幅は広いのにだぞ? 生後一年から三十年くらいまで、様々。それでも二十人。
だからそれだけ、能力の高い人材なわけで。誇り、と言うの名のプライドもある。
「安全第一で、丁寧に。時間をかけてもいいから、きちんと完成した陣を描くように心がけてほしい。事故が一番怖いからな」
教室の何倍も広々とした学園の裏手にある魔法実技用グラウンド。
グラウンドに集まるのは、魔法陣スキルもちの学園屈指の優秀な生徒たちだ。
その中の一人である俺──マンティコア魔族のカイト・クテシアスは、剣呑な瞳で低く柔らかに語る男を見つめる。
生徒の群れの前で実技テストの説明をするのは、グリフォール魔族の教師──シャウルー・アッサディレイア。
通称、アディせんせぇだ。
またの名を、二足歩行型魔法陣辞典。非公認。
さっぱりとした黒い短髪に、真一文字に引き結ばれた唇。
すっと通った鼻梁と兼ね合い、端正にまとまった顔立ちの、硬派な男前に見える。
どちらかと言うと取っ付きにくい容姿だが、どこかのほほんとした緩い瞳が印象的な、変わり者の臨時教師だ。
──せんせぇとの出会いは、数日前。
貴族や地位が高い者が多い俺たちの親を気にして眠たい授業ばかりする、臆病な前任の魔法陣学教師が飛んだ。
その代わりにやってきたのが、アディせんせぇである。
初めはつなぎの教師なんてどうせ馬鹿なやつなんだろうと侮り、本気で強くなりたい俺達は、結束して追い返す算段をつけていた。
学会に論文を載せているわけでもない、ぽっと出の教師だ。
少し難しいテストをこじつけて振れば、怒るか逃げるか、とにかく教師面できまいと。
力が全ての魔族。強さを求めて当然だ。それを与えられない者は不要。
そういう理由での嫌がらせだった。
有り体に言えば、無茶振り。
なのにアディせんせぇは、優秀とは言えひよっこの俺たちじゃあ二重がけすら不可能な魔法陣の重ねがけを、八重にも重ねてやってのけた。
ありえないだろぉ? 俺たちはみんな、馬鹿みたいにぽかんとしたさ。
けれどあれじゃ足りないか? なんて肩をすくめるものだから、どんだけ極めたんだと気持ち悪くて仕方がない。
でも接していくにつれて、せんせぇはしっかりと努力をした人なんだと、わかった。
俺たちの名前を全部覚えていたのも、教師とはそういうものだと聞きかじったせいで、馬鹿真面目に一夜漬けをしたからだ。
知識も実力もそれだけ血反吐を吐いて覚えたんだと、あっけらかんと笑っていた。
それは正直、俺たちはドン引きだけどよぅ。魔法陣全部脳味噌直焼き付けって、死ぬだろ……。
痛みでのたうち回った挙句、窓から飛び降りるレベルの頭痛に苛まれる方法。
マジで正気ならやらない。ドマゾ。
魔族は特に回復魔法が不得意だから、そういうどうしようもない内側の痛みが嫌いだ。
手足が吹き飛んでもまぁサクッと治すが、怪我じゃないものの治療は治癒能力のある魔族じゃないと駄目なんだよ。
てかそも、魔法陣の頭痛は治らねぇ。脳細胞書き換えてるし。
それを全部。
拷問かバケモノか、じゃなければとんでもないマゾヒスト。
なので内緒だが、アディせんせぇのあだ名はもう一つ〝変態マ法陣マニア〟というのがあるのだ。
マ法陣マニアとはもちろん、マゾヒスト魔法陣マニアの略だ。
人畜無害な魔法陣特化の変わった男。
それが俺たちの見解である。
40
お気に入りに追加
2,669
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる