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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

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「ハウリン──」
「…………」
「……アゼルは、あの一番後ろの席に座ってほしい。この紙とペンを貸し出すので、これで黒板の魔法陣を写すんだぞ。後でテストをするから、しっかり覚えるように」
「ん」

 仮の苗字で呼ぼうとすれば無言で拒否されたので名前を呼ぶと、アゼルは素直に紙とペンを受取って、指定した席に向かって歩きだした。

 そうするとようやく閉口していた生徒たちが、漣のようなざわめきを起こし始める。

「ヤベェ。体験学生今世紀最弱のオーラ漂ってるぜ。なんで特進コースの魔法陣スキル持ちクラス来たし。一個作ったら死ぬんじゃねぇか?」
「でもさっき廊下でアディ先生絞め技カマされてるっぽかったじゃん? 教室の中で翼引っかかって下半身だけ震えてたじゃん?」
「そりゃお前先生だから親とか気にしてシメるの自重したんだろがい。でなきゃあんなモッサリ星の民みたいな奴にしてやられる魔族がいるかよ」
「ってか喋らなさすぎんくない? ちょっと誰か死角から爆破かけろよ」
「そんなんしたらあのクリクリ天パーがアフロになんじゃねぇか。採用」

 うーん。
 小声のざわめきはよく聞こえないが、生徒たちも緊張していたのかもしれないな。

 なんにせよ、静まり返り続けなくてよかった。俺はほっと一安心して黒板に向き直る。

 ──が。


 ドゴォンッッ!!
「うぉあぁぁあッッ!?!?」


 背後から聞こえた鈍い音と悲鳴に、そのままくるりと一周回って再度生徒たちと相対するハメになった。

 あぁもう、これだから戦闘民族はまったく油断ならないんだ……っ!
 挨拶代わりにすぐメンチを切る……っ!

 そして困り気味に眉を垂らして振り向いた俺の視界に映る光景。

 まずは股関節の可動域がどうなっているのかという程綺麗にほぼ真上を蹴り上げた、アゼル。

 そしてそれをくらったのだろう一人の男子生徒が背面に仰け反りながら宙を舞う、ノックアウトの瞬間だった。

「ぎゃふんっ!」

 ゴンッ! と天井に頭部を打ち付けた後、教室の後ろの方まで飛ばされたその生徒は、目を回してドサッ! と倒れた。

 ええと、彼は鬼族でオーガ魔族のゴンザレスだ。
 あの巨体がゴムボールのようにはじかれてしまった。

「……うあっ、しまったぁぁぁ……ッ!」

 そしてそんなゴンザレスを見て、アゼルははっと我に返り足を下ろしながら、小声で悔恨の念を紡いでいる。

 なんだ、いつものうっかりか。

 またしても静まり返った教室に、アゼルのその言葉はよく響いた。

 解読するに、いつものうっかり加減を間違えただけらしい。
 事件でないことを察して、俺はほっと胸をなでおろす。

 なにかにキレたわけじゃないみたいだ。よかった。平和だ。

 俺はにこりと和やかな笑みを浮かべ、まったく仕方ないなぁ、と思いつつ息を吐いた。

「ほらアゼル、うっかりゴンザレスを昏倒させてないで席に着くんだ。骨は折らなかったのは偉いが、今日は仲間なんだから仲良くするんだぞ」
「ぐ……だって急に後ろから殺気感じたから、反射的に背後とって反撃しちまったんだよ……ッ! 迂闊に攻撃魔法発動させて俺の背後に立つからだろ……!?」
「ああ、そういえば殺気察知スキルがあったか。しかしもしかすると、背中に虫でも付いていたのかもしれない。お前はすぐ先手をとるからな……ちゃんと謝っておくように」



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