本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
上 下
585 / 901
十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

21

しおりを挟む


「それでどうやっていこうか」
「俺が乗せてやるぜェ~」
「グロッキーになってしまう」
「じゃあ俺が、と言いたいですけど命が惜しいので無理です。俺は抱き抱えてしか運べませんから」
「それはな……」

 未だに戦闘音が響く魔王城を尻目に、俺たちはのんびりと会議をして移動法を考える。

 しかしままならないな。
 俺が誰かに抱かれて帰るなんて、勢い余ってゼオが殺られてしまう。

「ン~そうだなぁ~」

 そうやって三人で考え込んでいると、俺をなでるのにようやく満足したらしいガドが、頭から手を離した。

 そしてポンと拍子を打ち、半身を乗り出し馬車の扉をガチャっと開ける。

 そこからずっと黙り込んでいた自分の副官──キャットに、おいでおいでと手をこまねいた。

「キャットォ~、お前背に乗せて運んでやれよォ。俺の命令だぜ」
「ああ、その手があったか」

 ニンマリ笑うガドの案に俺もなるほどと合点がいって、彼にならい拍子を打つ。

 そうだ。キャットは空軍であり、グリフォール魔族なのだ。形態変化ができる。

 魔物のグリフォールは背に乗ることはできないが、魔族の形態変化なら危険はない。

 そして高速飛行はできないので、ライド・オン・ガドのようにグロッキーになることもないのだ。

 愛嬌があって人好きのする明るいキャットなら、きっと安全に俺を魔王城まで運んでくれるだろう。

 屈強な竜ではないので、もしかしたら彼にとって俺はちょっと重いかもしれないが……。

 ううん。こんなことなら、ダイエットをしておくべきだった。

 だが俺はそれをするとすぐに筋肉がなくなって、みすぼらしくなってしまうからな……悩みどころだ。

「まぁそれしかないな……キャット副官、早急にお願いします」

 話を聞いたゼオも頷き、ガドの横から馬車の中へ顔を覗かせ、キャットに声をかけた。

 満場一致で期待のこもった目を向けられ、うつむき気味に座っているキャットがそっと顔を上げる。


「許可なく俺に話しかけるなといつも言っているのが、わからないのか? そうやって貴様等がネズミにも劣る小粒脳だから、自分の部下すら止められないのだ。恥を知れ、このドグサレ共が」

「ぅよし! 一旦閉めるぞ」
「お?」「は?」


 バタン、と反射的に窓を閉じ、一旦コマーシャルへと入る。
 コマーシャルとシャルはかけてない。

 ついさっきまでの明るく愛らしい挙動と言動からは、まるで信じられないほど冷たい対応。

 敬愛する上官と最推しの副官へ、鼻で笑いながらとんでもない言葉を吐き捨てたキャットに、思考タイムが必要になったのである。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

処理中です...