583 / 901
十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
19
しおりを挟むちょっとしたエピソードを聞いてほしい。
この間俺と廊下で立ち話している時に、急いでいたのか荷物を抱えて廊下を走り抜ける一人の軍魔が、盛大に転んだのだが……。
俺は見てしまった。
その拍子に俺に向かって飛んできた武具が、軍魔ごと瞬間冷凍され、アグレッシブなオブジェができてしまったのを。
そしてその犯人は、何事もなく話を続けてきたりして。
彼としては俺を守るために取った、優しさたっぷりのつもりの措置であったことを。
俺は咄嗟にどう言えばいいのかわからなくて、硬直してしまったからな。
助けてくれてありがとうと、ちょっとやり過ぎだが混ざりあって、最終的に「あり過ぎだ」と言ってしまった。
閑話休題。
その出来事を踏まえると、だ。
そうだな……。総合的に見ると、かっこいい、な。うん、かっこいい。
ゼオはいい男だ。彼は躊躇しないところがいいところであり、俺の驚きをかっさらっていくところでもあるのだ。
俺はあの後、氷漬けの軍魔を必死に溶かしたぞ。たいへんだった。
「そうだな、ゼオ、かっこいいな。とても強いし、認めた人に対しては優しいからな……認めた人にはな」
「! はい! ご存知でしたかっ、そうなんです……っ! ゼオ様はかっこいいです!」
キャットは頬を上気させ、前のめり気味に興奮する。
ゼオの中身がクールでかっこいいなら、キャットは明るくてかわいらしい。
ゼオのどこがかっこいいのかを語り始めるキャットに、俺は表情を綻ばせてうんうんと聞き入った。
そうこうしている間に、馬車は魔王城が見えるところまでやってきた。
だが、なにかおかしい。
なんというか、要塞じみた城の上空で炎が吹き上がり、暗雲が立ち込めている。
更にそのゾーンを囲むように空軍と思しき軍魔たちが、やんややんやとお祭り騒ぎを起こしていた。
(あの暗雲は……もしかすると、もしかするのだろうか)
雲ではなく魔力の塊だとすれば、炎を吹き上げる巨鳥をそこから発生する黒いツララが狙い撃ちしているのも、理解できるな。
両サイドの馬車の小窓から顔を出す俺とキャットはそっと頭を引っ込め、ほぼ同時にコクリと首を傾げた。
「どうやらなにがどうしてか、親子喧嘩が巻き起こっているみたいだな」
「うぅん。そうですね! 別名魔王城のナンバーワンとナンバーツーによる頂上決戦かと思われます!」
「ふむ……とすれば俺たちはあそこに割って入ることはできないぞ? 馬車ごとぺしゃんこになってしまう」
怪獣対戦中の魔王城上空と、それを止めるでもなく観戦しているバトル慣れした魔族たちに、どうしたものかと悩む。
しかしキャットはケロッとして人好きのする爽やかな笑顔を浮かべ、俺に親指を突き出した。
「大丈夫ですよ! お妃様が〝俺のために争わないで!〟と言えば終戦するかと思われます! マルガン様が魔王様関連の修羅場の無敵ワードだとおっしゃってました!」
「俺にそんな特殊能力はないと思うんだが……」
そのまだ見ぬ陸軍長官さんはどういう経緯でその結論に至ったのか、俺はますます考え込む羽目になった。
「行けます! 大丈夫です!」と自信満々に晴れやかなキャットに対して、俺は「いやでも、俺の声がまず聞こえないんじゃないか?」と悩ましい。
俺たちがどうするか決めかねているので、馬車を引くグリフォールも立ち止まり、戦々恐々と親子ゲンカを見ている。
うっ、もふもふが震えてかわいそうだ。
早くなんとかしなければ。
40
お気に入りに追加
2,689
あなたにおすすめの小説





【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!



王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる