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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

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「それでですね! 月に一度陸、海、空の三軍長報告会があるんですけど、そこにいるともう圧巻で!」

 饒舌になった口は、止まるところを知らない。キャットは本当に魔王城の幹部たちが好きなんだな。

「海軍長官のワドラー様は軍部一の古株で、前魔王様ともご友人だったんです! その補佐官である御子息のアワヤル様も、海軍の海獣艦隊を率いて鍛え上げているので、面差しが夏の日差しのように鋭く格好いい!」
「ワドラーは確かに渋くて格好いいな。ユリスのお兄さんにも会ってみたいものだ」
「はい、是非お会いしてみてください!」

 あれからずっと話が続いているが、キャットはニコニコと常に笑顔で、嬉嬉としてどんどん話す。

「陸軍長官のマルガン様もみんなはスケコマシだと言いますが、俺はたくさんを愛せるお優しい方なんだと思います! だっていつも、体が砕けても先陣を切って行くんですよっ!」
「そうか、それはすごいメンツだな。ふふふ、その中に並ぶキャットもすごい魔族なんだな。かっこいいじゃないか」
「そっ!? そんなっ! そんなことないですよ! 俺なんてまだまだピヨピヨのだめ副官ですっ! かかかっかっこいいっていうのはですね、あの、陸軍長補佐官のような方をいうわけでですね……っ!」

 頬を染めて語るキャットを褒めれば、彼は湯気が出そうなほど赤くなってもじもじとそんなことを言い出した。

 なんだか恋する乙女のようでかわいい。
 庇護欲がそそられるな。

 微笑ましく思いながらも、俺はキャットの言葉から脳内に一人の人物を思い描いた。

 濃い目のグレーの髪に赤茶の瞳。
 背中から生えるコウモリの翼に、ひねくれた血の好み。

 美形ぞろいの魔王城において高い地位にいながら、陰に潜むように垢抜けない容姿。

 何事にも動じない永久凍土に見えるが、感情が表に出にくいだけで、本人はいたってマイペースな現実主義者リアリストだ。

 ガッチリ自分の中で尊敬に値するかを見定めて、その態度を隠しもしないハーフヴァンパイアさん。

 陸軍長補佐官といえば、以前俺と半日デートの下見に付き合ってくれてからなんだかんだと仲良くなった男──ゼオ。

 ゼオルグッド・トード。
 その人である。

 彼は純血のヴァンパイアの髪色と瞳が白と赤であるために、くすんだ色味から半人前と罵られることもあるらしい。

 しかしそれを全て闇に葬って、現在のポジションに陸軍満場一致で収まっている。

 かっこいいというより、迂闊に手出ししてはいけない男だ。

 尊敬に値する人には手を出さないしなにをされても甘んじて受け入れる彼だが、俺は、ゼオの恐ろしさをよく知っている。



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