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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
15(sideライゼン)
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時はさかのぼり正午・魔王城。
──魔界宰相・ライゼンは、必死であった。それはもう、全力であった。
朝の謁見と会議が終わるやいなや、書類の束とペンにインク壺まで持って窓から飛び出そうとする──主。
に、抱きつき。
執着という名の暴走を、渾身の力で引き止めているのだ。
「離せぇぇぇぇぇえッ! もう俺の今日の予定は終わっただろうがッ! 後は空で執務をするッ! ディードルが見えるところで、アイツの帰りを待つんだよ、ライゼン! 離さねぇと腕折るぞッ! 言っとくがシャルが見てねぇんだ、俺はしっかりやるぜ!」
「ええ、ええ、それはもう十二分に心得ていますが! 魔王様、空中執務はいけませんッ! 効率最悪というのはこの際おいておいても、王が執務をこなしながら空中浮遊なんてしていたら、民がなにかの調査かと思って無駄な心労を負うでしょうッ!?」
「知るかそんなことは! 勝手にストレス耐性トレーニングだと思ってればいいだろうがッ! まずは追いかけてねぇだけ褒めるべきなんじゃねぇのか!? 俺は相当、相っ当我慢してんだぞッ!? ちょっとフライングで出迎えるぐらい目をつぶれよッ!」
「ちょっと!? ちょっとじゃないです! シャルさんが帰ってくるまで、後何時間あると思っているのですか! いいですか!? 民や軍魔に後々なぜ魔王様はあそこにいるのかと尋ねられる私は〝お妃様の帰りが待ちきれなくて四時間空中待機していただけですよ〟なんて笑って答えなければならないんですッ! うちの魔王様がすみません感が頂けないのですよッッ!!」
「それがお前の仕事だろうがぁぁぁぁああぁぁぁああぁッ!!」
「そんなわけないでしょうおバカ様ですかぁぁぁぁぁぁッ!?!?」
ライゼンの渾身の絶叫が窓の外へ響き渡り、魔王城敷地内の森から、一斉に鳥が羽ばたいていく。
空を飛んでいた野良魔物のワイバーンの群れが、驚いて火を噴いた。
それほど力をこめたツッコミだったのだ。
昔はあまり大声を出すことがなかったのだが、主の相手をしていると叫ばずにはいられない。穏やかに暮らしたい。
そんな心からのツッコミを受けたにも関わらず、まるでいうことを聞く気配がないポンコツ化中の魔王様。
彼は本当にライゼンの腕を「隙有りッ!」と怪力スキルと筋力に物を言わせて弾き飛ばし、窓から飛び降りた。
──ああもう、なんて全力なんだ……ッ!
全力でポンコツの主を追いかけ、ライゼンはすぐに窓から飛び降りる。
狼化する主を捕まえるために、本来の形態である炎を纏った巨大な赤燈色の不死鳥に姿を変え、ヒュオオォォォォ、と飛び立った。
『お待ちください魔王様ッ! 私の腕、本当に折りましたねッ!? 骨が粉砕していたじゃないですか! 無闇矢鱈と骨を折ってはいけませんッ!』
『アァ!? 折ってないですぅぅ! 無傷ですぅぅ! ついてくんなよ目立つだろうがッ! せっかく朝上手く我慢して送り出せたのに、待ち構えてんのがバレてシャルに意志の弱い男だと思われたら立ち直れねぇぞッ!?』
『それは無傷ですとも自己再生しましたからねッ!? もおおおお貴方様がうっかりした時にその屁理屈を使うからガドが真似をするんですよ! おやめくださいッ! そしてバレたくなければ執務室にお戻りくださいッ!』
『あのなァ俺はアイツの旦那だから一秒でも早く無事を確認しなきゃだめなんだぜッ! そういう法律なんだよバァアカッ!』
『あッ!? 人にバカなんて言ってはいけませんといつもいつも進言しているでしょうッ!?』
『お前もさっき俺に言ったじゃねえかッ! やぁいやぁいバァカッ!』
ついてくるなと吠えながら放たれる、小規模な闇の魔弾。
ライゼンはそれを避けたり打ち消したりしつつ、頭を抱えたくなる気持ちで、懸命に振り切ろうとする主にお追いすがる。
──あぁ。
主と違い聞き分けのいいあの人が、臨時教師としてしっかりと勤めているだろう間。
その裏で、この戦いも一週間続くのだろうか。
普段は決してこんなことはしないのだが、あの人のこととなると考えるより先に動き出してしまう残念な主を思い、胃がキリキリと痛むライゼンだった。
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