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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
06
しおりを挟む「それでは資料の二ページ目をご覧下さい」
「こちらを」
「…………」
ペラリと資料をめくり、アゼルはそれを読む。
「私は臨時教師としての業務中、架空の人物として教職員以外……生徒たちには身分を偽って教鞭をとります」
「は?」
「これは素性を明かすことで余計な混乱や、ないとは思いますが謀への巻き込まれを防止する意味があります。人間だと侮って、悪事を働こうと考えてしまうかもしれませんでしょう?」
「そうか。名案を思いついたぜ。行かなきゃいいんじゃねぇか?」
「魔王様、話が進みません。シャルさんが困っているでしょう」
「うあぁ……!」
なんとか自分は代わりになれないと納得したのに、資料を読んだ途端振り出しに戻るアゼルを、ライゼンさんがどうにか押さえてくれた。
困ったな。
ここまで嫌がられるのなら行かないほうがいいんじゃないかと思う。
だがそれでは引き受けた仕事を投げ出す、ダメ人間だ。
こうしていつも助けてくれるライゼンさんに、俺は永久に恩を返せない。
ぐっと改めて気を取り直し、模造紙の仮人物設定のところをつつく。
〝シャウルー・アッサディレイア〟
〝魔王城学園経営部門所属・グリフォール魔族。アッサディレイア家分家出身。〟
〝従兄弟の空軍長補佐官キャレイナル・アッサディレイアの元で育ち、魔王城で暮らしている。それ故に世間に疎い。〟
〝飛行中事故により落下したことがあるので、飛行は苦手。補佐官キャットが過保護なため、魔王城と現地の往復に彼の送迎がついている。〟
これが俺の仮設定だ。
設定文の隣にライゼンさんが描いてくれたイラストがあるが、象形文字のような奇っ怪なものなので、グリフォール魔族がどんなものか実のところわからない。
「こちらの設定で、短時間擬態薬でグリフォール魔族に擬態します。学園側には説明を致しますので、擬態防止の検査はスルーできます」
「俺はスルーしねぇ」
「箱入り設定だと、もし魔界について私の知らない話がでても誤魔化しが効きますよ。送迎についてくれるキャット副官も了承済みです」
「俺は了承してねぇ」
「……貴族である彼の家名をお借りするので、迂闊な手出しはできないかと思われますし……内外共に安全面は問題ないかと。よろしいですか?」
「俺はよろしくねぇ」
どうあがいてもよろしくないんじゃないか。
全然ちっとも納得していない。本当に俺関連はテコでも譲らないなお前は……!
オロオロと焦る俺は棒を近くの棚に置いてアゼルに近寄り「どうしてよろしくないんだ?」と尋ねてみる。
するとアゼルはぐあっ、と牙を向いて威嚇し、体の前で大きなバツを作った。
「どれもこれもダメダメだ。なんで魔王の妃なのに俺以外の家名がついてんだよ、おかしいだろ? せめて俺の家名を名乗りやがれ。仮にでも他人の家族になるんじゃねぇ! 俺の番だぜ! 俺のだ!」
「アゼルの家名を付けるとモロバレだからな。他の全てが一瞬でひっくりがえるキラーワードだ」
「構わねぇだろうが! お前に手出ししたら出てくるのは俺だとすぐにわかんだろ!?」
「んん、それが困るから偽名を使っているんだが……。アゼル。多少小突かれても俺は自分で対処できる。そんなに心配しないで、安心いっぱいで送り出してほしい」
「どっどこに安心要素があんだッ!?」
首を横に振って全力の拒否を見せるアゼルをなだめて、心配せずともされるがままに手出しなんてさせないと親指を立てる。
するとアゼルにバシンッ! と自分の膝を叩いて抗議された。
ど、どこって、安心要素しかないじゃないか?
城から離れるとまた誘拐なりなんなりされるかもと過保護になるなら、ちゃんと自己解決に尽力するとアピールしただけなのに。
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