567 / 901
十一皿目 魔界立ディードル魔法学園
03
しおりを挟む◇
会議をしよう。
となっても、この世界にはスクリーンもプロジェクターもない。
なので二畳分ほどの大きさの模造紙に文字とイラストを使ってまとめられたプレゼン表を、部屋の壁に貼り付けた。
その脇に立つ俺は、長めの棒でその模造紙の見出しを指す。
「コホン。それではこれから、一週間臨時教師派遣についての具体的な計画を説明致します。お手元の資料の一ページ目をご覧下さい」
「…………」
「こちらを」
俺の説明に合わせてライゼンさんがさっと資料をめくり、模造紙の正面に持ってきた椅子に座るアゼルに渡した。
先程から瞳孔が開き気味なアゼルの目が資料を追いかけるのを確認して、説明を続ける。
「まず簡単にこの計画に至る理由ですが、資料にあるとおり学園経営部門の教員不足と、顧客からのクレーム対策による緊急措置です」
「…………」
「報告書を昨日読んでいらしたでしょう?」
「…………」
ライゼンさんが声をかけると、ギュンッ、と目が吊り上がった。記憶にあるらしい。
「うん。魔法陣学はスキルが必須の魔法であり、神殿のない魔界ではスキルの有無すら当局では把握が困難で、急な人員が見つからない」
「…………」
「その問題は昨今勇者である移動型スキル判定機……じゃない。リューオ氏の協力のもと、改善しつつはあるものの、依然状況は改善途上といったところでしょう」
ペシペシ、と模造紙のグラフをつつきながら悩ましい声をだす。
うーん……リューオは細かい仕事が嫌いなんだ。
なんだかんだ言ってアゼルとは悪友のような関係なので協力はしてくれるが、体がなまると言ってすぐ陸軍に混ざってしまう。
強者に絶対服従。
タイマンで負けたら拒否権なしな魔族社会において、何度アゼルに負けても懲りないリューオは奇特な存在だろう。
だからこそ魔王の悪友なんて立場が務まるわけだが、魔界の人員把握は蝸牛の如き速度である。
「そんな苦しい状況である今」
ペシン! と模造紙を強く叩いた。
会議の盛り上がりだからな。演出だ。
「声がかかったのが、背後関係の確認や能力の確認が既に取れていてすぐに派遣できる魔法陣の使い手──つまり私、大河 勝流ですね。私が今回の計画に協力することになりました」
「ブラボー!」
「…………」
バババン。ドヤ顔の俺だ。もちろん演出である。
ちょっと恥ずかしいが、ライゼンさんと決めた演出だからな。
ライゼンさんはパチパチと拍手をして賞賛を贈ってくれる。けれど本丸のアゼルが相変わらずの仏頂面で、我慢ならない様子だ。
俺は両手を広げてドヤ顔をしていたのをスン、といつもの表情に戻して、ライゼンさんにありがとうの意味で片手を上げた。
アゼルに向き直り、小首をかしげる。
「ここまではよろしいでしょうか?」
「…………俺も使える」
よろしくないらしい。
絞り出すような俺も使えるが聞こえる。唸り声すら上がりそうな眼光だ。
しかしプレゼンモードの俺はそのくらいではへこたれない。
プレゼン。それは言葉で人を動かすビジネスな話し合い。
またの名を、言葉で人を唆す。
俺の場合は、納得してもらえるまでひたすら、延々、それはもうずっと語り続けること。しつこいと折れてもらえる。
50
お気に入りに追加
2,662
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愛され奴隷の幸福論
東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。
伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──……
◇◇◇◇◇
*本編完結済みです*
筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり)
無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。
体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!
せっかく異世界から帰ってきたのに、これじゃあ意味がない
乙藤 詩
BL
男ばかりの異世界で、7年間も勇者として活躍した冬馬。
任期を終えてこの先の事を聞かれ、迷わず元の世界に帰る事を選択した。
それなのに〜
異世界から戻ってきたのに、異世界の住人に愛される話。
眉目秀麗執着攻め×負けん気強い男前受け
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話
雪平
BL
17歳、その生涯を終えた。
転生した先は、生前妹に借りていた乙女ゲームの世界だった。
悪役令嬢の兄に転生したからには、今度こそ夢を叶えるために死亡フラグが立ちまくるメインキャラクター達を避けてひっそりと暮らしたかった。
しかし、手の甲に逆さ十字の紋様を付けて生まれて「悪魔の子だ」「恥さらし」と家族やその周辺から酷い扱いを受けていた。
しかも、逃げ出した先で出会った少年はメイン中のメインキャラクターの未来の騎士団長で…
あれ?この紋様、ヒロインのものじゃなかったっけ?
大帝国の神の子と呼ばれたこの世で唯一精霊の加護により魔法が使える冷淡(溺愛)騎士団長×悪魔の子と嫌われているが、生きるために必死な転生少年とのエロラブバトル。
「……(可愛い可愛い)」
「無表情で来ないでよ!怖い怖い!!」
脇CPはありません。
メイン中心で話が進みます。
嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした
天岸 あおい
BL
「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」
――新王から事実上の追放を受けたガイ。
副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。
ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。
その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。
兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。
エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに――
第12回BL大賞エントリー作品。
筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。
※R18シーンは中盤ぐらいから。該当シーンには話タイトルに『●』が入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる