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十皿目 ワンとニャー
18(sideアゼル)
しおりを挟むそうやってぴょんぴょんと屋根の上を飛びながら、建物の上を走り回り回る俺たち。
「猫耳もいいがあいつには犬が似合う」
「わかる」
やら。
「でもユリスには猫耳のほうが似合うと思う」
「っぽい」
やらと叫び散らして破壊工作を行っていると。
「──水、五十弾、ぶち抜けぇええぇぇぇッ!!」
「はッ!?」
突然、向こう側の棟からキレ気味の水魔法が放たれ、俺と斬り合っていたリューオが、水の弾丸に狙い撃ちされた。
「ちょ、っまッ、まてまてまてェッ!?」
「闇、守れ」
ドドドドドドッ、と猛々しく放たれる水の弾の雨に慌てるリューオに対して、俺は素知らぬ顔で防ぐ。
ちなみにリューオは炎魔法スキル持ちだから、水魔法スキル持ちの水魔法には、防御貫通されるんだぜ。魔法陣スキルねぇしな。
俺は普通に全属性トントンの闇魔法使いだ。
相性全無視防御余裕。レア属性なんだぜ。ふふふん。
水しぶきがかからないように闇の魔力で壁を作り、聖剣振り回して必死に魔法を弾いているリューオを余裕綽々と眺める。
ご愁傷様な野郎だ。
俺はシャルと喧嘩して魔法を放たれたことなんかねぇぜ。円満だからな。クックック。
「マジで死ぬマジで寒い濡れるマジでッ!」
「大声で人のこと辱めてなにやってんのこの公然わいせつ脳みそスライム男がああああああああッ!!」
水魔法の出処は案の定──俺とシャルの部屋の窓から、血走った目で睨んでいるユリスだ。わかりきっていたことだが。
よくもあの距離からリューオにだけ正確に当てれるもんだと思うだろ?
理由として、ユリスは常日頃魔導具に魔力付与を施している、魔導研究所所員なのだ。
あいつは肉弾戦はからっきしだが、魔力コントロールは大の得意だかんな。
「わっわかっ、わかった俺が悪かった俺が悪かったから許してくれユリスッ!」
「今すぐッッ! 這いつくばって謝罪しなよッ! 三秒以内ッ!」
「ハイッ!!」
怒り心頭なユリスに呼びつけられ、リューオは借りてきた猫のようにおとなしくなった。
素早く屋根の上を走り、俺たちの部屋へ向かっていく。
俺もリューオを追いかけるのを口実に、まだ仕事は終わってねぇけどシャルに一目会いに行こうと、一歩踏み出した。
「アゼル、おーい。おいで」
「!!」
そんな俺をちょうどのタイミングで、控えめに窓から呼ぶ柔らかな声。
この世のカワイイを集めて人型にして、優しさと癒しと俺への愛でくるんだ唯一無二な存在。
俺の嫁が、窓から俺に向かって手を振っていた。
ヒュッ──と空を切り、足が窓枠にかかってガツッ、と硬い音が鳴る。
「シャル、なんだよ」
久しぶりに最終形態で空を飛んだ。翼がないと飛行は難しいが、高度魔法の多重がけで俺にとっては朝飯前だぜ。
最終形態なんてここで使わずいつ使うんだ?
むしろシャルに駆け寄る以外に、使いどころがあんのか?
結果的に先に走り出したリューオより、早く到着してしまった。
急いできたと思われるのがちょっとアレなので、なんでもない顔をしつつ窓から部屋に入り込む。
するとシャルは突然現れた俺の姿にきょとんとしていたが、すぐに「アゼル」と微笑んだ。
さっと胸元を押さえる。
──かっ……かわいいィ……ッ!
「瞬間移動か? 凄いな」
「ふっ、ふふん、俺にかかればこのくらいの距離三秒かかんねぇ。急いだわけじゃねぇぞ、俺は普通に速いんだ。そうだろ?」
「そうだな、アゼルはなんでもできて凄い」
シャルは凄い凄いと褒めて、少し背伸びをして俺の頭をなでてくれた。
その手つきが心地よくて、俺はにやけそうなのを我慢する。口がへの字になってしまう。
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