557 / 901
十皿目 ワンとニャー
17(sideアゼル)
しおりを挟むけれど昨日のシャルの話を聞いていた俺は、リューオに言いたいことがあった。
最後の一口を食べ終えて、麦茶を一杯飲む。
麦茶は初夏に取れる大麦の種を煎ったお茶だが、魔族はあまり飲まない。
だがシャルも暑くなると冷やしたコレが好きなので、魔王城でまとまった量を常備しているのだ。
「まず聞け、クソ勇者」
「あんだよ」
「シャルは猫じゃねぇ、犬タイプだッ! 猫もいいけどな!」
「知ぃぃるぅぅかぁぁぁぁッッ!!」
俺は昨日からずっと思っていたことを言えて、スッキリ爽やかである。
しかしリューオは青筋を立てながら聖剣を取り出し、ドガァンッ! と俺の座っていた椅子を破壊した。
フンッ、なにキレてんだコイツは。
最重要事項だろうがッ! シャルは犬だ! ツンツンなんてしねぇんだよ素人がッ! 犬耳犬尻尾で首輪をつけたシャルのかわいさがわかんねぇのか!?
聖剣の一撃を難なく避けていた俺は、さりげなく血鎌を伸ばしてシャルの使用済みタオルを奪い、召喚魔法域にしまった。
ぬかりねぇぜ。俺だからな。
「テメェマジいい加減にしろよッ! 人の話を聞かねぇ駄犬は、今日こそ力技でしつけてやらァッ!」
「いいぜコノヤロー望むところだッ、掛かってこいよッ!」
飛び上がって窓際に逃げた俺を、リューオがそのまま聖剣を振り回して追いかけてきた。
俺は戦闘バカを引き連れ外へ続く窓を吹っ飛ばし、二人そのまま外へ出る。
屋根を伝って鎌と剣で斬り合いながら走ると、キィンッ、キィンッ、とぶつかり合うたびに火花が散った。
外の従魔たちは訓練されたように散り散りになっていく。
短気な俺たちによる魔王VS勇者はいつものことなので、慣れているのだ。
「テメェに相談した俺が馬鹿だったわッ! シャルんとこいったらユリスの声が聞こえたからって、お前に聞いたのが間違いだったわッ! この嫁馬鹿クソ魔王ッ! あとさり気なく俺のリーサルウェポン回収してんじゃねェよッ!」
──キィンッ!
「なに言ってやがるシャル関連グッズは旦那である俺のもんだろうがッ! シャルはもはやシャルである時点で最高にかわいいが、犬耳は神がかってんだよッ! ふっと笑ってアゼル、って呼びながら尻尾がゆらゆらなんだよかわいいんだよッ! お手っていったらん? って首かしげながらわん、ってッ! わんってッッ!!」
──ドゴォンッ!
「犬耳が神がかってんのは知ってるわ犬耳なら俺の恋人が存在で最高を証明してるわァッ! 気持ちよかったらピクピクすんだよッ! 耳の付け根触ったらそこやだ、さわんないでってッ! 珍しくもじもじするんだよ最高だわ犬耳ィッッ!!」
──ドガガガガッ!
「わかってんじゃねぇかアアアアアアアッ!」
「テメェもなアアアアアアアアアアッ!」
──ドガァァァァァンッ!!
俺の闇魔法とリューオの炎魔法の塊同士がぶつかって、ひときわ大きな衝撃波が起こる。
おかげで緑化的な目的で作ってあった城の森が、半分まるごとクレーターになってしまった。
仲の悪い俺たちがこういう些細な喧嘩をすると、とりあえず地面がえぐれるのもいつものことだ。
いいか? 犬耳は最高だぜッ!!
60
お気に入りに追加
2,693
あなたにおすすめの小説



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる