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閑話 勝者たちの祝杯

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 目の前のローテーブルに乗る漆器のカップには、ガドが買ってきた紅茶専門店のいい茶葉を使った紅茶が用意されていた。

 今朝焼きたてのクルミクッキーと、記憶喪失になった日に作ったピスタチオのクリームサンドのリベンジ品も用意してある。

 あの日のクリームサンドは、日持ちしないものなので一人で食べてしまった。それを言うとアゼルがショックを受けてしまったから、これも作り直したのだ。

『俺が食べてねえお前の菓子があったらダメだろうが。お、俺のせいでもな。まあ、いつかまた作るんだろ? 代わりになにが欲しい? 後いつかっていつだ? 明日か? 別にいつでもいいけどよ、金貨ならここに有るぞ。いつでもいいけどよ』

 上記はアゼルらしい〝もう一度作ってほしいな〟というオネダリのセリフである。
 どうやら記憶喪失になったせいでおやつを拒否して食べ損ねたことが、かなり悔しいみたいだ。

 口調はいつものツンなアゼルだったが、キューンと子犬の鳴き声が聞こえてきそうなほどしょげていた。

 俺は気にしていないのだが、これでアゼルの歴代お菓子コレクションに穴ができてしまったな。

 ライゼンさん曰く博物館は拡大しているならしいので、少しだけ残念だ。
 閑話休題。

 そんなわけで今日は格別の感謝を込めて、本人の希望を叶えるべく、ひたすら俺がガドの頭を愛でる体勢でのティータイムを楽しんでいるのである。

 短いがサラサラな銀髪は触り心地がよく、ガドには申し訳ないが愛玩動物のようでなかなか楽しい。

「お前イイ匂いすんなァ」
「そうか? でも腹に顔を埋めるのはやめてくれ」
「クックック、弱った魔王を言葉でねじ伏せた俺は勝者だぜ? 俺のティータイムなんだよォ。そういうこった」
「そういうことか」

 腹部に顔を埋められるのはよろしくないので、ふんわり拒否する。

 強者が絶対な魔族において戦利品であるこのティータイムは、ガドの独壇場ということらしい。
 まあガドは男で共通の友人なので、そこはアゼルもわかってくれていると思う。

 俺の恋愛対象は女性だからな。
 そうじゃなくとも俺はアゼルに一途だぞ? 断固迷惑だとフラれない限り、別れたりしない。

 ……だから膝枕をしたあたりからずっと無言でガドにメンチを切っている旦那さんは、そろそろ独壇場を許してあげてほしい。

「…………」

 アゼルは物凄く感謝と嫉妬の間でせめぎ合っているのだろう空気を醸し出している。
 三人でティータイムなので、当然アゼルもこの場にいるのだ。

 ガドが体を横たわらせているほうとは逆側の俺の隣でお菓子を食べながらも、公認なので口は出さないが、その代わりに目力で牽制している。

 残念ながらアゼルを怖がらないマイペースな竜であるガドは、声のない威嚇をさくっとスルーしているので、アゼルの目が若干光りかけているが。

 目が光ると第二形態に移行する。
 俺との初戦闘で見たなつかしの形態だな。

 銀髪褐色になって、ますますアジアンテイストな魔王衣装が似合ってしまう。

 うーん……アゼルがカッコいいのは知っているが、モテはしなくていいぞ。
 今頃天界にいるのだろうあの天使にも、あんなに執着されるぐらい好かれていたからな。

 できれば、俺だけに好かれていてほしいものだ。
 これがアゼルが俺に酷く感じているらしい、独占欲だろう。束縛系の俺なのかもしれない。


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