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閑話 勝者たちの祝杯
02
しおりを挟むちなみに軍魔でも魔族でもない俺が、城に帰ってきてなにをしていたかというと──寝込んでいた。
いやはや……本当に不甲斐ない。
極度の緊張状態だったのと、貧血と疲労。
そしてそれ以前の一週間ほとんどちゃんと寝てなかったことと、食事も疎かだったこと。
それらがアゼルと無事魔王城に帰って来た安心感でどっと押し寄せてきたようで、朝起きようとしてふらつき、情けないことだがあっさりダウンしたと言う訳だ。
とはいえ一日しっかりと寝ると、食事睡眠を充実させれば全く問題ないレベルである。
なので仕事をしたかったのだが──そうも行かない事情があった。
まぁ、その……心配して見に来てくれたいつもの皆に、大丈夫だと言うとな。
なんだか皆、無言で過保護モードに入ってしまってな。断固阻止された、と言うか。
本当に俺が自分に使う大丈夫を一切信じてくれなかった。
最早聞いてすらいなかった。
全員がだぞ?
誰かが働いている時にじっとしているのが耐え難い現代社会人だった俺に、全員なにも仕事をくれなかったんだ。
そうなると流石にそこまで信用がないのかと、しょぼくれてしまった。
けれど俺がしょげるとソワソワするアゼルだって、俺の大丈夫はやっぱり信用してくれなかった。
困ったものだ。早くか弱いという勘違いは正してほしい。
閑話休題。──さて。
長くなったがそういうわけで、不甲斐ない俺はまたも騒動の後始末にも参加できず、ベッドの住人となっていたのである。
言っておくが、揃ってしまったガドとアゼルという過保護二大巨塔を侮ってはいけないぞ。
自分が幼児だと錯覚するくらいひたすら世話を焼かれるという、過剰看護生活な一週間だったからな。
それだけ心配させてしまったということだから、世話を焼かれると申し訳なく思う。
これをいうと二人とも口を揃えて「お前が頼り下手だから勝手に世話するしかねぇんだよ」というので、俺は黙るしかないのだが。
うぅん。助けられるのを待つ選択肢が全くなく、少々過激な脱獄方法を自力で決行したことから、相当偏見を持たれているみたいだぞ。
そもそもアゼルだって記憶をなくしている間、俺の厨房の場所を聞けばいいのに誰にも聞けず彷徨っていたらしいじゃないか。
ガドに叱り飛ばされてボロボロにならないと、泣くことすらできなかったとか。
アゼルは弱音を吐くのがヘタクソだな。
困ったアゼルだ。俺のかわいい旦那さんである。
これを言うとガドには「この欠陥辞書夫夫共め」と笑われた。
似た者同士なんだ。仕方がない。
まぁ、なにはともあれ、手厚い看護を受けた俺はすっかり体調も元通り。
胸を張って元気だと言える状態になった。
「ンー……シャぁルゥ、もっと」
「このへんか?」
「ンンン~」
ソファーに座る俺の膝に頭を置いて擦り寄ってくるガドのおねだり通り、角の付け根あたりをこしょぐってやる。
すると彼はたまらないように声を上げて、長い尻尾を揺らめかせて鼻歌を歌った。
大きな体を丸めてソファーに収まる姿は、なんだかかわいらしい。微笑ましくてクスリと笑う。
現在なにをしているのかというと、なんのことはない。
すっかり元気になった俺は自室にて、ゴキゲンなガドにいたれりつくせりなおもてなしをしているのだ。
──ことの発端はいつかの約束。
順番にとっていった休日が今日はガドの番で、ならばとあの日の約束通り、俺とアゼルとガドの三人でティータイムを楽しむことにしたわけである。
三人のお茶会は、ガドの戦利品だからな。
魔族ルールで叶えねばならない。
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