537 / 901
閑話 勝者たちの祝杯
01
しおりを挟む天界から戻って、一週間が経った。
アゼルたちが留守の間に案の定というかなんと言うか、天使がいくらか襲いかかってきていたらしい。
天界にいる時、確かにそんな話を聞いたのだ。
だがそこは万全の体制で挑んできた魔界軍。
城は陸軍が守っていたので、軍魔も民も全員無事である。
その中には陸軍で働くリューオももちろんいて、なんならを先陣を切っていたらしい。
リューオは俺と同じ人間で、しかも勇者なんだが……チート戦闘力である。
更に眉唾情報。
なんと聖剣使いのリューオは聖剣で聖法を受け止め、ついでに吸収できることが判明したそうだ。
なのでリューオを盾にして敵に特攻し、怯んだ隙に軍魔が囲んでリンチするという作戦で、見事に死傷者ゼロ。
勇者と書いて最強の盾ができてしまった。
魔界軍はどんどん磐石になるな。
それから魔導研究所が聖法での状態異常検査機の作成に成功したので、操られていた内通者を軒並みあぶりだすことができたとか。
これがとても大きい。
アゼルは王様なので、操られているというだけでは自国の魔族を処断できない。守るのも王様の役目だからだ。
かと言って内情を垂れ流すのは止めなければならないし、虱潰しに全員殺すこともよろしくない。
そんな八方塞がりの悩ましい現状を打破する素敵なアイテム、〝聖法痕検査装置〟。
製作者はユリスを含む魔導研究所の面々だ。
特別手当が出たそうだぞ。それほど画期的なアイテムである。今ならリシャールに操られても、すぐにそうとわかるだろう。
研究所所員たちも、軍魔たちも、アゼルが記憶喪失になってからの数日間ずっと働いていた。
空軍なんて魔力供給なしのまま魔界から遠く離れた上空でドンパチなので、重軽傷者多数だったんだ。
ライゼンさんが同行してなければ、治癒用魔力が全く足りないレベルだった。
軍魔は強い魔物の魔族なので、防御無視の作戦名ガンガン行こうぜである。
信号機三人組は揃って目を回していたぞ? 今度お礼のお菓子パックを渡す予定だ。
──とまぁ、そんなわけで。
各々が自分なりに頑張った魔王城の魔族たちは、戦闘の後片付けをしてから、順に定休日とは別の休日をもらうことになった。
交代制で休みつつ、溜まった仕事も処理してメキメキと復興していく魔王城。
魔族は強か。
終わりよければ全てよし。
後始末が順調すぎて、枯れてしまった俺の贈り物である花を抱えて泣きだしてしまったアゼルが、庭に上等な墓を作る暇があった程だ。
ポロポロと涙を零してへの字口のまませっせと墓を作るアゼルの悲しげな背中といったらない。
戒めも込めているそうだが、アゼルがここ数日ずっと思い出し泣きしすぎて、枯れてしまいそうだった。
俺はそれのほうが悲しくて、同じく胸が痛かったな。
だから全身全霊で抱きしめて甘やかして、口に出せないあれこれもして、どうにか元気づけたのだ。
おかげで一週間が経った今は、ようやく普段通りのツンツンデレデレなアゼルになった。
うん。やっぱりアゼルはそうじゃないとな。
50
お気に入りに追加
2,693
あなたにおすすめの小説



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる