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九皿目 エゴイズム幸福論

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(単体でなら勝率は高くとも、こんな大規模戦闘はちょっと不利だぞ……! そうならないようにしたかったのに、そんなことわかっているはずなのに、どうしてだ……?)

「どうして、突然暴れだしたんだ……!?」

 重傷者に治療をする天使たちや崩れ落ちた瓦礫を躱して、ひたすらここよりも強大な魔力を感じる方向へ駆ける。

「応援をっ応援を呼ばねばっ!」
「オイ待て! 玉座の間には行くなッ! 巻き添えを食らって死ぬぞッ!?」
「ひぃぃぃッ! へ、陛下以外はもうみんな殺されたッ! 王族も一兵卒も関係なくだ! 近衛騎士団がまるごと壊滅したんだッ!」

「うわああああッ! 城の上空もダメだッ! 化物がいるッ!」
「我らが天空軍が総当りしているがまるで効いていないぞ!?」
「城の中だッ! とにかく邪悪なる魔獣共の殲滅をッ!」

「大変だアァッ! おッ王子殿下がッ! 王子殿下が庭園で敵の手にッ!」
「クソッ! はやくお助けしろッ!」
「それが、宰相様でも歯が立たないのですッ! 数を集めないと……ッ!」
「そんな余裕がどこにあるというのだッ!?」

 あちこちから集まってくる天使たちの声。

 それが耳を掠めて状況を理解するにつれ、本当に魔界からきた全員が天界に牙をむいているのだとわかり、焦燥が胸を締めつける。

 治癒が得意な天使たちの治療が追いつかないほど、圧倒的で容赦のない攻撃。

 立ち直る時間を与えないというわけか。
 ここで潰す。そのための一斉同時攻撃を、事前に取り決めていたのかもしれない。

 ならばこれは本気だ。
 本気で天界を壊滅させる気だ。

 ──なぜこんなことを突然……?

 駆け抜けながら俺の脳にはその疑問が絶えず浮かび、自分の行動を最適化するため、攻撃の意図に思考を巡らせた。

 記憶がないあのアゼルは、警戒心が強く慎重で疑り深い。

 けれどアゼルに全幅の信頼を寄せるガドやライゼンさんは、アゼルの命令がなければ決して攻撃を開始しないだろう。

 そこまで考えて、ハッとした。

 まさか。
 いや、これまでの情報からその可能性はあるだろうが、そんな馬鹿な。

 アイツは魔王としての自分をちゃんと大事にしているし、その立場の重さを自覚している。

 なのにこんなこと、王としては後先考えないにも程がある。
 もし全てわかっていて全面戦争を仕掛けたのなら、正真正銘の大馬鹿者でしかない。

「……っ」

 だけど……そうじゃないと、説明がつかないじゃないか。

 記憶のないアゼルは、表向きの理由まで用意して、威嚇するような顔ぶれで牽制して、たぶんそうやって俺と記憶を迎えに来てくれた。

 魔王として魔界を危険に晒さないよう準備をし、超えてはいけないギリギリのラインまで、できる限り尽くしてここに来たのだろう。

 それが急に手のひら返して、その体面を全てを無に帰し、力技で奪い返そうなんて。

 ──いや……違う。
 突然今持てる全軍を使って攻撃を仕掛けるくらい、なりふり構わず怒っているんだ。

 記憶が戻った、アゼルが。



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