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九皿目 エゴイズム幸福論
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しおりを挟むかなりの荒業で拘束を抜け出した俺は、隠密スキルで姿を隠したまま、城の中を素早く走り抜けていた。
誰かに触れられたり迂闊に物にぶつかることに気をつけ、忙しなく駆けていく天使たちの様子を伺いつつ移動する。
どうやって拷問部屋から自由になったのかというと、なんのことはない。普通に扉から出てきたのだ。
──あの部屋で自由になった後。
俺はスキルで姿を消し、メンリヴァーが戻ってくるのを扉の裏で待っていた。
頑張れば扉を壊せたかもしれないが、魔力の消費も抑えたいし、流石に壊したりしたら誰か来るかも知れない。
そこから逃走経路を割り出されるかもしれないので、しかるべき人物に出口を開けてもらったということである。
な? 簡単だろう?
唯一の懸念はメンリヴァーが気配察知スキルを持っている場合だが……それも問題なくクリアだ。
念のため剣を構えていても、彼は気づかずに部屋の確認を始めた。
それはつまり気配察知スキルを持っていないということなので、俺はすぐに部屋を出て物陰に潜みながら、人の流れに従って移動。
こういうことには華美で派手好きな天使よりも、貧弱な人間に一日の長がある。
俺の前職は、勇者という名の暗殺者。
表舞台に出ないように動くのは、慣れっこだ。
人の流れに逆らうと目立つからな。それから、気配もごまかせる。
「伝令ッ! 伝令ッ! 緊急事態だッ!」
「第一から第四部隊は王座の間を取り囲めッ! 空戦部隊は城の上部からの攻撃を警戒せよ! 残りは王子殿下の元へ急げッ!」
迷うことなく進む俺は、目的地を知らない。
土地勘はないが、なにも知らない城の中を勘で動くなんて探索時間が惜しい。
諜報活動をしに来たわけじゃないなら、わかりやすい道で十分。
天使の集まるところが作戦の要。
なるほど……城外へ出て行く天使以外の者は、みんな王座の間というところへ向かっているみたいだな。
予想外の出来事が起こったのか。
なんだろう? 騒がしさはありがたいが、事態を把握しなければ。
俺は叫びながら戦闘態勢を整える隊列に混じり、人ごみを移りながら同じ方向へドンドン進んでいく。
道中は情報を得ながら、自分がどう動くのが効果的なのかを考える。
抜け出してからそれなりに時間が経過していたために、追っ手がかかる焦燥感が酷い。
とっくにいなくなったことはバレているだろう。逃げ切れるのか、わからない。
「……、ふう……」
大きな通路の柱の影にサッと入り、それを背にして耳をそばだてる。
王座の間、予想外のバッドニュース、天界の外と中に武装して散らばる天使たち。
「よしッ! 地上部隊は魔界へ向かった! バカめ、主戦力の魔王と軍の半分をここへ連れてくるなど、乗っ取ってくれと言っているようなものだッ」
「っ」
断片的な情報を繋げていく俺の耳に、そんな言葉が入り込んだ。
「だが準備が整っていなかったぞ? 切り札の確保からたった二日では、部隊編成と作戦の通知が回りきっていない……っ! 魔族ごときに遅れを取るとは思えないが、一目見たあの幹部たち……黒と赤と銀だ。あれはなんだ? 敵地のど真ん中でこれだけの天族が出迎えたのに、誰も顔色を変えなかった」
「なんと、貴様見たのか……! あれは魔王と、魔界宰相、それから魔界軍空軍長官……汚らわしい魔族の中でも、バケモノだ。王座の間へ入ることを躊躇しなかった。外から強固な貫木がかけられたのがわかったはずなのに、アレらは三人ぽっちで天族の上層部に喧嘩を売りに行ったぞ」
「なに……ッ!? やはり魔族、愚か過ぎるッ。ならば今のうちに外の魔物、羽虫共を捕らえておくべきだな」
「フッ、空軍がまるごと来たらしいぞ? 上層部は混乱しているが、我らからすれば魔物風情にしてやられるわけがないのだがな。ハハハハッ」
違いない、と笑いながら王座の間へと羽ばたいていく天使たちの会話。
そこから得た情報によると──この城に今、アゼルたちがいるらしい。
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