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九皿目 エゴイズム幸福論
54(sideアゼル)
しおりを挟む(ッ一対一の本気の攻撃は──決闘ッ……!)
「離せッ、殺しちまうぞッ!」
ビュゥゥゥウゥゥ……ッ、と鼓膜を突風に揺さぶられながら、俺は反射的に放ちそうになった魔法を無理矢理消す。
一対一の攻撃。これは決闘だ。
どちらかが負けを認めるまで終わらない。
自分の意思を貫く権利をかけた、決闘。
だがガドは俺より弱いのだ。
(それをわかっているはずなのに、殺されたいのか……っクソ……ッ!)
『ハッ、今の魔王に殺される俺じゃねェ! なにが弱いんだッ!? なにが嘘吐きだッ!? アイツがお前に嘘を吐かなきゃいけなかったのが、なぜだかッ! わからねェのか臆病者がッッ!!』
攻撃を躊躇する俺に、怒髪天を衝くガドが噛みついた牙から麻痺毒を流し込み、言葉で責め立てる。
一時身体が動かず、思い切り顎に力を込められ、俺の身体はゴシャッ! と音を立てて真っ二つになった。
「ああ゛ぁあッ!! ッ、ンの、イテェな」『クソトカゲ風情がッッ!!』
しかし俺は、真っ二つになったくらいじゃ死なない。
ダメージは大きいがすぐに第三形態──本来の魔物である巨狼に変化し、ダメージをすべて帳消しにする。
そして闇の魔力を全身に纏い、そのまま目の前で羽ばたくガドに向かって突っ込んだ。
──臆病者だと?
そんなことは、誰よりも俺がわかっている。
俺が誰より──自分が大嫌いなんだよッ!!
『ッガァアッ!』
ドゴォンッ! と硬い竜の鱗で覆われたガドの体躯へ、毛皮の下で張る俺の強靭な体躯を癇癪のままにぶつける。
俺に体当りされたガドは体を逸らして衝撃を逃がすが、かわしきれずに悲鳴をあげてよろめいた。
それでも諦めず、ガドは突進する。
『っ……俺がトカゲなら、魔王は負け犬だろォがッッ!!』
『どいつもこいつもなにもかもうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッッ!!』
その言葉が耳の奥を突き刺して掻き回すのが苦しくて、俺は力任せに叫び、ガドの身体に鎌をくねらせ振り下ろした。
だがガドはそれすらものともせずに向かってきて、正面から俺の首元に食らいつく。
くい込んだ牙が骨にあたり、ゴリッと嫌な感覚があった。
「グゥ……ッウォォォォンッ!!」
「ガ……ッグォォォォォオッ!!」
痛みに声を上げ、息ができないままに俺もガドの首元に食らいつく。
上空でうねりを帯びて絡み合い、血しぶきを上げる二匹の魔物。
黒い狼と、銀の竜。
その間には誰も入れない。
これは血の繋がらない兄と弟の、されど本気の兄弟喧嘩だ。
『! チッ』
『グァ……ッ!』
ジワァ、と全身から高濃度の毒液を滴らせ始めたガドに、俺は背後から鎌を突き刺し、首の肉を噛みちぎって弾かれたように離れた。
(ガド、本気か……ッ!)
それは触れただけでも並の魔族なら即死する、そういう殺すことだけに特化した代物。
ガドから溢れたそれが表面を流れ地面へ落ちると、ジュウゥと美しい芝生が煙を上げて溶けていく。
大空を自在に舞うガドに、弱者は近づくことすら叶わない。
近づけば悶え苦しみ、触れれば死ぬ。
だからガドは、死舞魔将と呼ばれているのだ。
けれど、魔王には関係ない。
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BL
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