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九皿目 エゴイズム幸福論
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しおりを挟む間違いのない返事に安心した俺は、笑顔を消して素早く距離を詰め、剣を振りぬく。
それを難なく受け止めた男との間に火花が散り、眉をしかめたくなる金属音が耳を劈いたのだ。
だが、俺は止まらない。
隙をついてそれを埋められても、対応されきる前に身をかがめ、床に魔法陣を貼りながら下方死角から剣を振り上げる。
ビュッ、と振り上げた剣は同じく難なく避けられたが、男のプラチナブロンドを幾らか刈り取り地に落とした。
それに男が気を取られている間に、バッと後ろへ飛び退き、身構えた状態で距離を取る。
途端、ボンッ! と弾けた爆音。
「チッ……!」
時間差で設置した魔法陣が男の足元で爆発し、男の姿は爆発の煙に包まれていった。
人間なら致命傷は免れない。
これまでの経験上、剣技で気を引きながら張り巡らせた罠を突然食らって、無傷な人間はいなかったと思う。
至近距離での爆破は殺す気だから。
それを俺の、一番愛する人にした、この男。
「お帰りください、だぞ? ちゃんと言葉の意味を聞いて、理解して、速やかに、行動してくれ。思い出の場所が壊れてしまう」
俺は警戒を解かないまま、ここへ来る前の、暗殺者時代と同じように、感情を殺した表情で爆煙を眺める。
ヒュンッと剣をひとふりして加減を確かめた。
「──俺は〝ピーチクパーチクうるせぇな。失せろ。ゴミクズ以下のヒヨコ野郎〟と言ったんだ。……ほら、あと何回花火を上げてほしい?」
弱い? 無謀? 無駄?
知るか、関係ない。
目の前に自分の愛する人を苦しめたクソ野郎がいるのに、一発喰らわせてやらないなんてそんな男がいるわけないだろう?
直後に死んだとしてもここでおめおめ従うなら、それはもう大河 勝流──アイツの愛したシャルじゃない。
「……ボール」
ドスの利いた声で尋ねると、煙の中から白い光球がヒュンッ、と俺目掛けて正確に飛んできた。
(俺が見えてるのか? スキル行使で、気配を消せないな)
試しに隠密スキルを使うが、すぐに光球がいくつも追ってくる。
壁伝いに部屋の外周を逃げる俺のすぐ後ろでドォンッドォンッと、建物が崩れない程度の衝撃音がした。
俺は逃げながらも、爆破の魔法陣をあまり広くない室内の至るところに貼り付けて回った。
支えになるところは避ける。
倒壊に巻き込まれたらひとたまりもない。
それに、アゼルに貰ったこの厨房がなくなってしまうのは、嫌だ。
「っ、ふ、……クソ」
走りながら合間に出入り口や逃げ出せそうなところを確認するが、ガゴ、と硬い感触があるだけでビクともしない。
ドアと窓は開かないか。
……なら逃げ出したくなるまで、根比べと行こうじゃないか。
身体強化はもうすでにフル出力だ。俺が走り出してからまだ十秒も経っていなかった。
止まる間もない追撃で動き続けるしかないが、攻撃の隙を伺うことは決して忘れない。
高速のやり取りの中壁を蹴り飛ばし、光球の発生源の真上に飛び上がって体をひねりながら剣を振り下ろす。
ギィンッ! と火花が散った。
「加重」
「チッ、小賢しい」
剣に貼り付けておいた重さを増す魔法陣を、受け止められる瞬間発動する。
リューオのように一撃に威力がない俺では、小細工をしなければ通用しない。
苛立ちながらもそれでも受け止める男は爆破の破片で傷がついたのか、頬にかすり傷があるくらいで、ピンピンしていた。
これほど必死に力の限り攻撃しても、かすり傷程度しか通用しない圧倒的な力の差。勝ち目なんて一切ない。
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