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九皿目 エゴイズム幸福論
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しおりを挟む頼れ頼れと言っていて、言われるまで動かない。
いざとなっても頼らなかったからボロボロなのだと責めるばかりだった自分は、また同じことを繰り返しそうだった。
「俺は魔王と違って、口で言うのは簡単なンだ。でも触れられることがなかった俺に触れてくるお前だから、言っておけば俺に遠慮はしないって思ってたんだぜ。口だけのクソ野郎。だろ?」
クソ野郎だなんて。
その言葉は、一番ガドから遠い言葉だ。
お前ほど情に熱くて最高に優しい竜はそうはいないだろう。
俺がそれを否定して感謝を告げると、ガドはそれを否定して自分を責めて謝る。
何度もそうするから、俺は手を伸ばしてガドの唇に指を立てた。
「こら、ガド。今夜はしー……なんだろう? どうか俺の大切な友人を愛してくれ」
「っ、……ククク、お前は本当に最高の男だなァ……」
「ふふふ。それはお前が最高の男だからな」
お前と出会えてよかったと言うと、ガドはとても機嫌をよくして俺のほうがよかったと笑っていた。
状態異常に強いアゼル。
回復能力が高いライゼンさん。
そのどちらでもないけれどガドに触れて、抱きしめる俺を、ガドは忘れることはないと言う。
──お前の求めた腕じゃないが、お前を大事に思う腕がここにもあることを、決して忘れるなよ。
「俺たちは飛んで笑った、愉快な探検隊。竜と人間の、素敵な親友なんだぜィ」
アイツの弟のようなこの男は、甘やかし方もアイツに似ていた。
こんなんじゃ俺は、二人揃ったら一滴だって一人で涙を流せないんじゃないかと、そう考えて笑ってしまった。
◇
バタン、と扉が閉まる音がする。
しばらく寄り添っていた後、ガドは帰っていった。
俺の部屋にこいと言ってくれたガドだが、今日は一人でいたいから、と断ったのだ。
アゼルには前の部屋にいると言ったから嘘を吐きたくなかったのと、許可もなく他の男と二人きりで夜を過ごすのは良くないと思ったから。
覚えていないアゼルに操を立てるのも変な話だけど、嫉妬深い彼だからな。
もし記憶が戻ったアゼルに「俺が忘れていた間に浮気をしたか?」と聞かれた時、後ろめたいのは嫌だ。
「アゼル、俺はなかなか貞淑なお嫁さんだと思うぞ」
ふふふと忍び笑いを漏らして、厨房の床に丸くなる。
スキルは解除した。
あれは精神力が減るから、本当は弱っている時に使わないほうがいいものだ。
断るとガドは俺が遠慮して、言うことを聞かないつもりなのかと離さなかったが、ちゃんと気持ちを全部説明して、納得してもらった。
アゼルの嫉妬深さはガドも知るところである。
それでも名残惜しそうだったので──
『それじゃあ明日は、お前に初めて作ったクッキーを焼こうか。あれはアゼルの好物でもあるから、午後のティータイムに三人で一緒に食べよう。約束だ』
──と言うと、機嫌を良くしたガドは俺に頭をたくさんなでさせてから、ようやく空へと飛び立って行ったのだ。
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