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九皿目 エゴイズム幸福論
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しおりを挟む(あぁ……ガドはさっき吐露していた、俺の最低で惨たらしい脆弱な心を……聞いてしまったのか……)
状況を理解した俺は、湿った頬を無理矢理に上げて、へらりと笑って仮面を被る。
「お……俺のスキル、効かなかったか? ごめん、ごめんな。みっともないことを聞かせてしまった。もう大丈夫だから、帰ろう? ガ」
「しー……」
「っな……」
しかしガドは話を無視して自分の唇に指を立て、後ろから俺を覗き込んだ。
そして微かな吐息をささやかに吹き出し、笑う俺が黙るように促す。
「な、なん……で……」
「しー……静かに」
「いや、ガド、俺は」
「シャル」
「っ……」
「しー、だ。……な?」
「は、ぁ……」
言い訳をしようとしたが、ガドはそれを許さなかった。
ふに、とガドの指が俺の唇に立てられてしまうと、これ以上話せない。
戸惑いながらも、喉の嗚咽を押さえ込んで、笑ったまま困ったように眉を寄せる。
黙った俺に、ガドは満足そうに口元を緩めた。
その指をそのまま俺の眉間のシワに触れさせ、そっと解すように何度か擦る。
──……だめじゃないか。
よりにもよってあいつに似ているお前が、俺の強がりを止めるなんて。
そんなことをされたら、さっきブツけた額が痛くて、また泣いてしまう。
「シャル、あのな? 俺はお前が隠れる前に、巡回帰りで空から走るお前を見つけたんだぜ。だからな、ここにいることをわかっていたから、その使い方を間違ったスキルは効かなかった」
止めた涙が目頭を熱し、涙腺をノックする酷い言葉たち。
「……ごめんなぁ……大事なお前を、すぐに温めてやれなくて」
「っ……ぁ、……、ぃ……」
眉間をなぞっていた指は柔らかな声と共に目尻を拭って、頬に手のひらがあてがわれた。
(──……そんなところまで、聞かれてしまっていたのか)
慰めを受ける俺は、ガドの大切なアゼルに八つ当たりして自分本意な泣き言を漏らしていたことを、強く後悔した。
それと同時に、罪悪感が襲う。
本当はガドの思うような理不尽に前向きな強い人間じゃないことと、辛くないと嘘をついたことがバレて、情けなくて惨めで。
俺を見ないでくれと、また頭を抱えて小さくなってしまいたかった。
叱られるのだと思ったのだ。
弱い俺はきっと面倒だろう。
それに俺はガドとの約束を破ってばかりの、だめな男。
なのにガドは責めることも、馬鹿だと笑うことも、もっとしっかりしろと叱ることも、しなかった。
ただそっとその優しい手のひらで、力加減にとても気を使いながら、涙が止まらない俺の目元覆ってくれる。
「頼れと言っておいて、俺はお前のこと、なンもわかってなかったなァ……そうだよなァ……そんな生き物に育てられたんだもんなァ……」
「ぉ、俺、は」
「お前が誰かに頼るぐらい苦しくなったら、その時にはもう壊れてるんだよなァ……」
俺は声を出そうとした。
否定しないとだめだ。そんなことはないと。
そんな殊勝な人間ではなく、ほんの少し愛する人に忘れられただけで、大声を上げて泣きじゃくるような人間なのだと。
だが、自分を貶す声を出すことは、俺の友人は許さない。
静かに、いつもの間延びした穏やかな声で、子どもをあやすように語り続ける。
「俺は知っているようで、それをわかったつもりになっていただけだ。酷い友人だぜ、そうだろう? だって本当のお前は、辛いことも悲しいことも全部抱えて、そしていっぱいになったら……静かに音もなく、破裂して消えてしまうような、……臆病で、哀しい生き物だ」
「っ……ン、ぃ……」
「イヤイヤ、すんなよォ。……でも、そうだよなぁ。それを知っていたのは、魔王だけだった。その魔王が忘れてしまったら、涙を消してくれる腕の中はもう、なくなっちまったんだなァ……」
「……ぃ、や……ちが、う……」
「だからお前は、一人で泣くしか、なかったんだよなぁ……」
隠していた本当の声を聞いたガドが、どうしてか俺じゃなくて自分を責めるから、俺は首を横に振る。
それもそっと止められて、微かに違うと声を出す。
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