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八皿目 ナイトデート
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しおりを挟む俺は立ち上がったアゼルにいいか、と前振りをして、言い聞かせるように指を立てて振る。
「あっち行ってよシャルって言うんだ」
「ハッ!?」
アゼルはクワッと目を見開き、わなわなと震え始めた。
だが、これを言ってもらえないと話が進まないからな。
リューオはコレがうまくいけば、アゼルが照れくさいことも忘れて出てくると言っていた。
なのでやりきらねばならない。
俺は「そういう歌なんだ。言ってくれるだけでいいぞ」とアゼルに言って、さぁとセリフ待ちをする。
「っ? あ、あ、あっちいってよシャル……?」
震えながらぽかんとしているアゼルは、とりあえず俺の頼みを聞こうと口にしてくれた。
それに一つ頷く。
「……わかったよー……」
「!?」
俺はセリフ通りにしょんぼりと肩を落として、くるりと振り向いた。
そしてアゼルに背を向けて、トボトボとリューオたちの元へ向かって歩く。
「ぅ、うう……!? え、ぅ」
後ろで呻く声が聞こえるが、振り向いてはいけない。
台本通りに辛気臭く歩きながら、リューオを見ると親指を立てていた。これであってるんだな?
んん……しかしこれじゃあアゼルにあっちいってと言われただけで、俺は歌を歌った意味がない気がする。
あっちいってか、なんだか悲しいな。
セリフなんだが、ちょっと寂しいぞ。
いつもならアゼルは俺を抱きしめてくれるのに、俺が背を向けていてはよろしくない。
なんて寂しいセリフだ。
俺はお芝居は向いてないようだな。
「……な、なんで離れるんだ馬鹿野郎、どっか行くなっ!」
「うあ、」
そうしてしょげていると突然後ろに抱き寄せられて、俺は温かいものに包まれる。
リューオがすごいドヤ顔だ。
「俺から離れることをなんでわかるんだアホ、生涯の約束を忘れたのかアホ、ふんっ」
「ん……あぁいうセリフなんだアゼル。お前が隅っこにいて寂しかった、お茶は一緒が美味しい。昨日買ったティーセットを使おうじゃないか。アレを俺と使えばデートなんだろう?」
「うぐぐぐ……!」
たてこもっていたのが芝居とはいえ引いてみることになると、あっさりと出てきたアゼル。
アゼルはバツが悪そうにしながら俺を背中から抱きしめて、二人一緒にユリスとリューオの元へ歩く。
昨日、俺の寂しいが欲しいと言っていたのを素直に口にしたので、余計に真っ赤になっているだろう。
耳に触れるアゼルの頬が熱いからだ。
二人の元へ行くと、リューオはふふんと機嫌よく腕を組んだ。
アゼルは俺を離さないのでそのままアゼルの膝の上に座り、リューオたちの向かい側のソファーへ着席。
「ほれみろ、言ったとおりだろ? 不思議な踊りでメンタルポイント、MPを削りつつの押してだめなら引いてみろだ。魔王一本釣りだぜ」
「ありがとう二人とも。もうお酒は禁止だ。それに、可愛がりすぎるのも良くないんだな。俺は我慢を覚えるぞ」
「! 悪いとは言ってねぇだろっ、その、なんだ、シラフの時は許す! 俺を存分に辱めやがれっ!」
「よしよし、わかったからその言い方はもう少しまろやかにしてほしい」
辱めたいわけではないのだ。
そう思ってアゼルの頭をよしよしとなでていると、リューオが「機嫌取りは大変だなァ?」とニヤニヤする。
なので俺はちょっと困り顔になって、リューオの隣に目をやった。
「すまん、俺のせいなんだが……作戦会議で俺と二人でくっつきすぎて、お前のお姫様がずっとふくれっ面なのに、いい加減気づいてあげてくれないか?」
「!? ゆ、ユリスッ! 俺が一番くっつきたいのはお前だッ!」
ツンデレな愛する人のご機嫌取りに大変なのは、異世界人コンビの宿命なのかもしれない。
魔界のツンデレ代表の頭をなでつつ、俺は一人笑みを漏らした。
八皿目 完食
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