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八皿目 ナイトデート
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──翌日
「オイ~魔王~早く出てこいよ~。今日の分のシャルの菓子も用意してあるうおッ! テメェ菓子だけ持っていくなよコラァッ!」ゲシッ
「ちょっと乱暴にしないでよ! 魔王様~! ネズミの口は塞いであるので安心してこちらへ!」
もういくらかで昼時になろうかという、燦々とした朝。
上掛けを頭からかぶって部屋の隅でこちらに背中を向けながら、魔法陣結界にひきこもっているアゼルを、ユリスとリューオが宥めすかして呼び寄せようとしていた。
アゼルは返事もしないでリューオの手にあった今日の俺のお菓子──レモンマドレーヌを素早く鎌の蔦の部分で巻き取って引き寄せ、そのままもそもそ丸くなる。
見てわかる通り、魔王様は引きこもり化中なのだ。
ことの発端は昨日のデート。
昨日俺はデレデレと酔ったアゼルをどうにか背中にじゃれつかせて、城まで連れ帰って来た。
こっそりと連れ帰った後は、とりあえず服だけ着替えさせてあやしたり子守唄を歌ったり、あの手この手で寝かしつけたぞ。
まるきり子どものように無邪気で甘えたになっていたからな。
大変だったがかわいかったので問題はなかった。
──そして、朝。
いつも通りの時間に朝日で目が覚めたので、眠るアゼルを起こさないように起床。
シャワーを浴びたりストレッチをしたり、俺は特に変わりなく過ごしていた。
のんびりするうち、いつも通り朝に弱いアゼルがもぞもぞと目を覚ます。愛すべき変わりない日常幸福。
頬を綻ばせた俺は二日酔いを心配して、温かい紅茶でも淹れようかと声をかけようとしたのだ。
しかしアゼルがな。
飛んだ。
俺と目が合った瞬間、上掛けを纏ったままボフッと真っ赤になって飛び、「ひぅぇぁぁぁぁ……!」と奇声を上げて部屋の隅に丸くなり、結界に立てこもってしまったのだ。
ぽかんとしてしまったけれど、こういう時のアゼルの状態はなんとなくわかる。
要するに都合よく消えてくれなかった昨日の酔っ払いモードの記憶がまるまる残っていて、それを思い出して羞恥心がオーバーヒートしたということだ。
俺はまったく気にしていないんだがな……。
そういうことじゃないんだろう。
デレの暴発で反動を受けたアゼルは、ギャーギャーと叫びながら丸くなってゴロゴロ転がり、頭を抱えて震え、一人で大惨事だった。
だから慰めようとして──。
「アゼル、昨日のお前は子犬のようでかわいかった。あんなにたくさん好きだと思ってくれているのは、嬉しかったぞ? それにまぁ……その、アレを舐めるぐらいなら、構わない。コスプレが好きなら、少しくらい付き合う」
──と言ったんだが。
余計に奇声を上げて床に頭を打ち付け、悶絶発作を起こしてしまったのである。
マルオが朝食を持ってきても結界の中でもそもそ食べて、仕事も様子を見にきたライゼンさんに書類を持ってこさせて過ごすアゼル。
仕事から戻った俺が近寄ってみても、まだ名残があるのか「忘れろぉッ! 顔を見るな!」とプルプル震えるので近寄れず、この有様に至る。
今はズーンと闇を背負って出てこないアゼルに、俺ができたてホヤホヤカップルのユリスとリューオを助っ人に呼んだところだ。
ガドに言われた通りに、俺は人に頼ることを覚えたからな。
意識して頼っている。
そして頼られた人たちは俺が思うより迷惑そうにはしないので、こういう関係は素敵なものだと思う。
ちなみに。
「むー……」
俺の口にはスカーフが巻かれ、おしゃべり禁止になっていたりした。
俺がアゼルにかわいかったから大丈夫と訴えると、余計に真っ赤になって発作を起こしたからだ。
どうやら俺が羞恥心スイッチらしい。
それにしたって酷い。一見捕虜じゃないか。
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