上 下
442 / 901
八皿目 ナイトデート

16

しおりを挟む


 ぎゅっと抱きついてスリスリしてくるアゼルの頬は赤く、触れたところが熱い。

 ふむ。アゼルの言う俺の嫌なところは、独占欲の思うところが多い。安心してもらえるよう、頑張ろう。

 けれど頼らないこととお金や贈り物をたくさんは喜ばないことは、ちょっと努力がいる。

 性分がな。物欲はあまりないのだ。メンタルの安寧さえあればなにも要らない。

 物はなければ作ればいい。それが無理なら代用品を探す。

 諦めるのは慣れているのだが、欲しがるのはな……。

 俺は譲れないものを決めれば、後は程々で大丈夫。お前のことは譲れないが、他はいくらでも差し出す。

 難しいけれど、アゼルが嫌なら努力はしよう。
 アゼルにはかなりわがままを言っているが、まだ足りないのだろうか。面映ゆい。

 俺の胸に耳を当て心臓の音を聞き、なぜか頗るテンションが上がっているアゼルのサラフワの髪をすきながら、内心拳を握る。

 心音しか聞こえないと思うぞ。
 俺の心臓の音は魔族が気に入るビートでも刻んでいるのだろうか?

 へらっとしながらもぞもぞアゼルが呟いている言葉は「生きてることに感謝」だったからよくわからない。

「俺が思うに、シャルのなー……直してほしいところはー……さっきみたいな、寂しいを独り占めすること、ずっと思ってた、って俺……俺知らねぇ~……! そんなんいやだ、いやだ、」
「うっ、いや、それは仕方がないだろう? ないとわかっていても重いと言ってフラレるのはだ「俺がぁっ!」お、お前がっ?」
「俺がお前をフる。そーゆう想像、禁止だっ、なんでそーなるぅー……俺がお前にぞっこん、コレぇ世界の常識……なのに、うぅぅ……」

 アゼルは一転してすねたように唇を尖らせ、やけ酒気味にワインを煽る。

 あぁっ、しまった。
 ボトルを没収しておけばよかった。

 それから上目遣いにこっちを見て、ちゅーしたい、と甘えた声で訴え始めたので、触れるだけのキスを送る。

 するとアゼルはめそめそと眉を垂らして、ギュウギュウとキツく抱きつき直してきた。

「うぁぁ、どーせ、シャルはきっと俺のやなとこいっぱい、我慢してるんだぁー……! 俺がホントはさっき、もう一回ぐらい、シたかったの、バレてるんだろぉ……ぐすん……」
「初耳だ」
「新婚旅行ってのにも、行きてぇなーってうかれてるのもバレバレだったんだろ、お花畑って思ってたろー……!」
「いや、初耳だ」
「ぐるるる、お前の✕✕✕✕に舌突っ込みたいって思ってるのも、トレーニングの後の✕✕舐めたいって思ってるのも、獣人化薬使ったお前に首輪つけて✕✕に尻尾突っ込んで一人で✕✕✕✕してるところ見たいって思ってるのも、バレバレなんだろー……ッ!」
「待て待て全部初耳だぞ……!?」

 こんな俺の考えはみんなお見通しなんだー、とグズりだしたアゼルを、驚き満面で見つめる。

 なんということだ。
 そんなことを考えていたのか。

 そして店で言えない単語を飛び交わせるのはやめなさい。

 扉前待機の店員さんをバッと振り向くと、親指を立てられた。
 よかった。聞かなかったことにしてくれるようだ。

 ぐすぐすめそめそと泣いてはいないが子犬なアゼルは、キューンキューンと甘えてグリグリしてくる。

「あぅあー……シャルが大好きだ、好き、俺はシャルが好きー……好きすぎて幸せなんだって、バレてるんだー……好きだ、うう、好きだ、しんどい、尊い……ちゅーしたい……」
「ん」

 ちゅ、とキス。
 それは初耳じゃない、ご存知だ。

 俺の唇に吸いつくアゼルをめいいっぱい抱きしめながら、やはり今日はどうやって連れて帰ればいいのかを、真剣に悩んだ俺である。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...