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八皿目 ナイトデート
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しおりを挟むぎゅっと抱きついてスリスリしてくるアゼルの頬は赤く、触れたところが熱い。
ふむ。アゼルの言う俺の嫌なところは、独占欲の思うところが多い。安心してもらえるよう、頑張ろう。
けれど頼らないこととお金や贈り物をたくさんは喜ばないことは、ちょっと努力がいる。
性分がな。物欲はあまりないのだ。メンタルの安寧さえあればなにも要らない。
物はなければ作ればいい。それが無理なら代用品を探す。
諦めるのは慣れているのだが、欲しがるのはな……。
俺は譲れないものを決めれば、後は程々で大丈夫。お前のことは譲れないが、他はいくらでも差し出す。
難しいけれど、アゼルが嫌なら努力はしよう。
アゼルにはかなりわがままを言っているが、まだ足りないのだろうか。面映ゆい。
俺の胸に耳を当て心臓の音を聞き、なぜか頗るテンションが上がっているアゼルのサラフワの髪をすきながら、内心拳を握る。
心音しか聞こえないと思うぞ。
俺の心臓の音は魔族が気に入るビートでも刻んでいるのだろうか?
へらっとしながらもぞもぞアゼルが呟いている言葉は「生きてることに感謝」だったからよくわからない。
「俺が思うに、シャルのなー……直してほしいところはー……さっきみたいな、寂しいを独り占めすること、ずっと思ってた、って俺……俺知らねぇ~……! そんなんいやだ、いやだ、」
「うっ、いや、それは仕方がないだろう? ないとわかっていても重いと言ってフラレるのはだ「俺がぁっ!」お、お前がっ?」
「俺がお前をフる。そーゆう想像、禁止だっ、なんでそーなるぅー……俺がお前にぞっこん、コレぇ世界の常識……なのに、うぅぅ……」
アゼルは一転してすねたように唇を尖らせ、やけ酒気味にワインを煽る。
あぁっ、しまった。
ボトルを没収しておけばよかった。
それから上目遣いにこっちを見て、ちゅーしたい、と甘えた声で訴え始めたので、触れるだけのキスを送る。
するとアゼルはめそめそと眉を垂らして、ギュウギュウとキツく抱きつき直してきた。
「うぁぁ、どーせ、シャルはきっと俺のやなとこいっぱい、我慢してるんだぁー……! 俺がホントはさっき、もう一回ぐらい、シたかったの、バレてるんだろぉ……ぐすん……」
「初耳だ」
「新婚旅行ってのにも、行きてぇなーってうかれてるのもバレバレだったんだろ、お花畑って思ってたろー……!」
「いや、初耳だ」
「ぐるるる、お前の✕✕✕✕に舌突っ込みたいって思ってるのも、トレーニングの後の✕✕舐めたいって思ってるのも、獣人化薬使ったお前に首輪つけて✕✕に尻尾突っ込んで一人で✕✕✕✕してるところ見たいって思ってるのも、バレバレなんだろー……ッ!」
「待て待て全部初耳だぞ……!?」
こんな俺の考えはみんなお見通しなんだー、とグズりだしたアゼルを、驚き満面で見つめる。
なんということだ。
そんなことを考えていたのか。
そして店で言えない単語を飛び交わせるのはやめなさい。
扉前待機の店員さんをバッと振り向くと、親指を立てられた。
よかった。聞かなかったことにしてくれるようだ。
ぐすぐすめそめそと泣いてはいないが子犬なアゼルは、キューンキューンと甘えてグリグリしてくる。
「あぅあー……シャルが大好きだ、好き、俺はシャルが好きー……好きすぎて幸せなんだって、バレてるんだー……好きだ、うう、好きだ、しんどい、尊い……ちゅーしたい……」
「ん」
ちゅ、とキス。
それは初耳じゃない、ご存知だ。
俺の唇に吸いつくアゼルをめいいっぱい抱きしめながら、やはり今日はどうやって連れて帰ればいいのかを、真剣に悩んだ俺である。
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