上 下
440 / 901
八皿目 ナイトデート

14

しおりを挟む


 今までお酒を飲む機会がなかったのか、それとも飲まずとも香るキリッとする風味から、自分で敬遠していたのか。

 真相はわからないが、つまり百年超えのはじめましてだ。

 いい気分になる、という酔いには耐性がなかったのだろう。

 普通の魔族ならちっともおかしくないが、アゼルだと意外な気持ちになる。

 てっきりいつもの魔王チートで全く酔わないだろう、なんて思っていたぞ。

(ううん、どうしたものか……)

 俺はとりあえずお冷を差し出して、ボトルを奪い返そうとする。

 だがアゼルはヒョイ、と俺の手を避けてボトルから直接ゴクゴクと煽り始めた。

 さっきよりにっこにことしている。
 これは重症だ。

「コラ、お前は酔っ払っているから、ワインはやめて水を飲むんだ。二日酔いになると明日が辛いぞ?」
「シャルの、ばかー……嫌だ、おまえの好きなものは、おれもいっしょにのむんだー……」
「あぁっ、溢れる溢れるっ」

 話しながら傾けたボトルからビシャっとワインが溢れ、アゼルの胸元をしとどに濡らした。

 俺は慌てて立ち上がり、ハンカチを取り出す。言わんこっちゃないだ。

 俺は焦りつつ彼の襟元をはだけさせ、トントンと湿った胸元を拭きつつ、今日はどうやって城まで帰ろうか考えた。

 来た時はアゼルの第三形態でひとっ飛びなのだが、飲酒運転になるかもしれない。

 とすれば俺が抱えて帰るしかないな。

 そんなことを思案している俺を、ワインを飲みつつ機嫌よくにこにこ眺めていたアゼルは、突然むぎゅっと俺の頬を両手で掴んで自分のほうを向かせた。

「むぐぅ、むぁんひゃなんだ?」
「シャルー?」
「ふむぅ?」
「んふふ、呼んだだけだぜ~?」
ひょうふぁそうか

 くそう、かわいいなこの酔っぱらい。

 ハンカチをしまいながら、俺は少しドキドキと胸を高鳴らせてしてしまった。

 アゼルはそのまま俺の頬や髪をわしわしとなでて、膝に乗れと催促してくる。

 それはいいがもうワインはやめておけ。
 ボトルを置いてほしい。

「こーら、酔っぱらいの膝には乗りません。大人しく水を飲むんだ」
「うっ! うぁぁ、なんでそんなひどいこと言うんだ……、シャルのばかー……シャルなんかきらいだー……」
「!? き、嫌いと、言うのが、酷いことだっうう……、バカアゼル……酔っぱらいだから、仕方ないが……俺も飲まずにはいられないぞ……」
「そうかぁ~じゃあのませてやる、んむ」
「ンン」

 むちゅ、と合わせられた唇からワインがトロリと流れ込んできて口移しで飲まされた。

 このくらいじゃあ嫌いと言ったのをナシにはできないぞ。酔っぱらいの戯言じゃなければ拗ねるからな。

 合わせた唇が離れて、深く呼吸する。
 仕方ないやつだな……。

「ん、まぁ、今日は遠慮なしって言ったからな」
「! くぅん、んへへ、シャルぅ~きらいはうそだ、いっぱい好きだ~……んんんーかわいい、かわいい、だいすき……おれのだ、かわいいシャル、すき、すきー……」
「…………かわいくはないと思う……」

 絆されてしまった俺が椅子ごとアゼルの体をまたぎ、向かい合わせにトスン、と乗る。

 するとアゼルは途端にへらりと破顔して、子犬のような声を出し、俺の腰を抱きしめながらすりすりと甘えてきた。

 甘えられる俺の頬が赤いのはワインのせいであって、なにもデレデレなアゼルの素直な言葉にやられたわけでは、ないのである。

 ……ないのである。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。 ※R-18作品です。 モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

処理中です...