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八皿目 ナイトデート

10(sideアゼル)

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 ──ひとりじめ。

 うわ言のように呟いたそれが、俺の心臓を泣きそうなくらい拙く、脆く、覚束なく縛り付けた。

 ほんの少し力を込めて否定すれば解け落ちるだろう、か弱い脆弱な言葉。

 幼く細やかで繊細な鎖。自己肯定力の掠れたシャルの、精一杯の束縛。

 もっと縛って、俺を求めてくれ。
 もっとワガママに、もっと独占してくれ。

 俺はお前のエゴが嬉しい。
 なりふり構わず俺の全てを欲しがって、剥き出しの我欲で心を蹂躙してほしい。

 お前が弱くなるほど、俺は歓喜で震えてしまう。

 そんなものとは無縁だった綺麗なお前の嫉妬が。独占が。
 それでも手放せないと告白したお前が、俺はとても愛おしい。

 傍から見れば、シャルは哀れな生き物に見えるのだろう。

 人間でも魔族でもなんでも根っこを辿れば、自分の願望が最も強くあるものだ。

〝自分だけを愛してほしい〟だなんて、当然であり、それを願うことになんの問題があるのかわからない。

 それを〝残酷なワガママ〟だと称し、俺が言えと願うまで漠然と抱えていた。

 シャルは普通の人間だが、普通よりほんの少しだけ、優しい人間だからだろう。

 今問い詰めなければどうせシャルはあのままで、自分が忘れられることに怯えながら、最期の時も笑って終わったはずだ。

 シャルは本名を遺せない。世界ごと断絶され、生まれ故郷はない。家族は俺だけ。同じ人間に捨てられた。

 これまで勇者の子孫が残っていたことがないのだから、おそらくシャルが女であっても、異世界人は子どもができないのだろう。

 そうでなくとも、勇者ではなかったアイツは人間国の史実にすら残らない。禁忌のように隠蔽される。

 シャルが遺せるものは本当に、俺への愛だけなのだ。

 俺だけが捨てられたアイツを必要とした。
 俺が忘れて他を愛してしまえば、なんて想像こそ、シャルにとっては残酷な終わり。

 ……バカだな、シャル。
 俺がいつ、お前以外を愛するなんて言ったんだ?

 お前がいなくなったからと他を愛するくらいなら、俺は喜んでお前と共にこの世を去るんだよ。

 お前が死んだ後を思って不安になるなら、俺は望み通り、お前と一緒に終わろうじゃねぇか。

 こんなことを言うと、きっとお前はそんなことはやめろと叱るだろうから、これは俺だけの秘密の誓い。

 お前の最期の瞬間、俺はいつものように拗ねてもっともっとと駄々をこねるだろう。

 そして仕方ないなと笑うお前に、とびきり甘い愛してるを貰うんだ。

 死後の世界があるとしたら、別れの挨拶を終えた直後にやってきた俺をお前はやっぱり叱るだろうが……まぁ、こればっかりは許してほしい。

 だから一人で寂しがるな。
 なにがあっても、俺がお前を愛していることに自信をもって笑ってろ。


「だって俺はとっくに、丸ごとお前がひとりじめ、だろ?」




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