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八皿目 ナイトデート
03
しおりを挟む街の中を手を繋いで歩く。
俺は次に行くところを決めていたので、悠々と手を引いて楽しみだと話しながら進んだ。
城下街では街の人にチラチラと見られないので、視線を気にすることはない。
自分たちの王がどういう存在か、よくわかっているみたいだ。
アゼルはスキップでもしそうなほど機嫌よく一心に俺を見つめて、城下街のアレコレをたくさん教えてくれた。
魔力スポットの魔王城で働く従魔や軍魔たちは強く、その家族が多くいること。
魔力に惹かれた根無し草の強い魔族が集まるため、ここには強力な魔族が多いこと。
人口に比例してとても広く、いろいろな種族に対応しているので、アゼルのようなこの世で一人しかいない魔族でも受け入れてもらえること。
そしてその分血の気が多いので、すぐに女をかけたり飲んだくれの勢いでタイマンを張り出す魔族が、本当に稀にいること。
──ガシャァンッ!
「テメェ腕返せオラァッ!」
「んだと首返せゴラァッ!」
そういう輩は交代制で駐屯する軍魔がどうにかしているので、城下街は怖くないし魔界は平和なのだということ。
「はいそこまでー。えーと、誰か死んだか? 生きてる? 死んだら書類が増えるから、ゼオ副官が凍らせにくるぜー」
「あぁもう、ブラックドックと石猿の決闘これで何回目だ。いっそ凍らせてくれ~」
「陸軍の旦那方ッ! こいつが俺の酒を盗ったんですぜ!?」
「こいつが先に俺のつまみを食ったんですよ!」
「一緒に飲んでたのかよッッ!!」
──ドカァァンッ!
「えええええッ!? な、なんだ!?」
重ねて言うが、魔族は優しくて魔界はとても穏やかなところだということ。
「そんなに言い聞かせなくとも、俺は嫌になって魔界を出たりしないからな?」
「ううあぁ、グルルル……ッ!」
血肉が飛び散ってもじわじわ回復している魔族たちと、それを止めに来た軍魔たち。
そして騒動を全く気にしていない、街の住民たち。
アゼルは安定の過激ライフな日常で、騒いでおいて結局元は仲良く飲んでいたらしい元凶に向けて、衝撃波を飛ばし唸った。
突然の横やりに向こう側が混乱しているが、フンッと鼻を鳴らす。
うん、こういうのも含めて城下街デートということにしておこう。
俺はいそいそとアゼルの手を引いて、目的地のお店に入った。
「いらっしゃいまアヒェッ!?」
入ったお店はペットショップだ。
種類豊富な小さな子どもの魔物たちがたくさんいて、眷属にすることもできるみたいだ。
カランカラン、とドアベルを鳴らして中にはいると、カウンターにいる店員さんが挨拶を噛んだ。
うちの旦那さんが威嚇モードですまない。
優しい魔王様なので気にしないでほしい。
ややムスッとしているくらいだが、地が仏頂面なのと常時威圧のせいで、店員さんだけでなく店の魔物たちも軒並み緊張感をだしはじめた。ちょっと申し訳ない。
「デート中の魔王様か、邪魔したら死ぬな……」
死なないぞ。
「俺は置物、俺は置物」
いや、自然にしていてあげてくれ。
お客さんたちはアゼルをどう思っているのやら、気配を消して動かなくなった。
紅茶専門店でもこんな感じだった。
「シャル、ここは魔物屋か?」
「まぁそうだな。俺は動物が好きだから見てみたかったんだ」
「動物…………お、俺がいるだろうが」
不貞腐れた表情で、ムギュ、と抱きしめられる。つまり、アゼルの嫉妬の対象は動物も込みらしい。
(んん……いくら本体は獣と言えども、魔物と張り合うことはないと思うんだが)
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