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八皿目 ナイトデート

02

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 そんなわけで、予定時刻が遅くなったがちっとも気にしない俺たちは、街デートをウキウキと満喫していた。

 夜の街は空飛ぶ明かりがたくさん灯され、夜でも閑散とせず、美しい。
 城のすぐそばにあるからだろうが、相変わらず活気がある街だ。

 食べ歩きはしなかったが、屋台の雑貨をあぁだこうだ見て回る。

 奇術館はなぜか入りづらそうだったので、代案で考えておいた演奏会に行ったり。

 デートの下見は功を奏して、アゼルはずっと楽しげだった。

 そして現在は場所を抑えておいた、紅茶専門店に来ているというわけだ。

 魔王バリケードで非常に歩きやすかったので、サクサクと楽しく店舗街を散策できている。

 そこはもう甘んじて受け入れることにした。アゼルも悲しきかな、距離を取られるのに慣れているのか動じないからな。

「んんん……」

 花柄を諦めた俺は、ガーデンモチーフのうぐいす色のパーティーセットと、シンプルなゴールド縁のパーティーセットで悩む。

 アゼルはアゼルで、珍しい和風な漆器のティーセットをそわそわと見つめている。

 あれはライゼンさんにじゃなくて、自分が気になっているな。

「あぁ……黒、好きだもんな。アゼルも新しく買うティーセットが決まったのか?」
「! ンなことねぇ。黒は闇の中みてぇで落ち着くってたけだし、別に、欲しくねぇぜ」
「ふむ……そうか。俺は欲しいから、買おうかな。アゼル、受け取ってくれるだろう?」
「ンンッ……!」

 ヒョイと漆器のティーセットが入った箱を持ち上げ抱えると、アゼルは悶えながらキュッと顔を両手で隠して、それからプルプルと震える。

 そして更に指の隙間から視線を彷徨わせて、ようやく俺の手にあるティーセットの箱を掴む。長かったな、目的地まで。

「俺といる時はお前は財布禁止だろうがッ! お、俺、俺が……! くっ、あまりに自然なプレゼント攻撃に余韻が……ッ!」
「大丈夫だ、攻撃する気はない。それにお前の財布禁止がデートの時に俺をもてなしたいだけだというのもバレているぞ」
「んな……ッ!?」

 アゼルは城の外へ俺を出してやれない分、外へ行く時は拒否してもたくさん物を買ってくれるし、俺に財布を出させない。

 財布を出すのは許可制という言い訳を聞かされているが、いくら間抜けな俺でもそれはもう気付いている。

 俺もそうだが、アゼルもしたがり構いたがりなのだ。

 本人はそれをうまく誤魔化せていると今の今まで思っていたが、今日は俺主導のデートだからな。

 さっきの演奏会も隙をみてチケットを買っておいたりと、そのルールは俺に適応されるのだ。

 俺は悪戯っ子のように笑って、アゼルの手をギュッと握る。

「さぁ、ライゼンさんへのカップを選ぼう。今日は俺に貢がれること。遠慮したら、そうだな……お仕置きに噛みつくからな?」
「それはご褒美だろ……!?」
「ば、ばかな……!」



 それから熟考して選んだティーセットは、夕焼け色のグラデーションが美しいティーセットだった。

 ライゼンさんの髪色にぴったりだ。
 彼の髪はとびきり美しい。

 俺は漆器のティーセットをアゼルに贈ったのだが、抱きしめて離さないのを説得して召喚魔法にしまわせるのが大変だった。

 なんとかしまわせたが、その後嬉しさの赴くまま店内で滅茶苦茶にキスされたのが恥ずかしかったな……。

 アゼルが嬉しいと俺も嬉しいのだ。
 これでティータイムをするたびにこの日を思い出してくれればいいなんて、俺はやっぱり少し気持ちが重いのかもしれない。

 だけど手を繋いで店を出て歩きだすと、アゼルは「これでお前とお茶を飲めば、それはもうデートになるだろ……」と頬を染めて神妙な顔で呟いたので、そんな心配は杞憂だったと胸が熱くなった。

 ふふふ。
 俺はきっと、そのカップでお茶を飲むと、お前のキスの味を思い出すのだろうな。

 キスの味。
 それは幸せの味だから。



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