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八皿目 ナイトデート
01
しおりを挟む「花柄はかわいすぎるか?」
「アイツかわいくねぇからな……」
むむ、と二人で眉間にシワを寄せて悩ましく表情をしかめる。
俺たちの目の前には、かわいらしい形の花柄のティーセット。
めぼしいものがまだ見つからない魔王様の様子に、紅茶専門店の店員さんたちが蒼白になっている。
そうだな、王様は怖いな。無人サークルにはもう慣れた。
魔王様とのデートの時は、いつも無人サークルができるのだ。
さて──遡ること、数時間前。
ユリスとリューオのしょっぱい始まりが甘酸っぱく終わった恋騒動に拍手喝采をしてから、なんやかんやと大団円を迎えた後だ。
仕事を早く終わらせるからデートをしようと約束していた俺は、予定通りにアゼルと城下街へ遊びに出ていた。
ふふふ、念願のデートだぞ。
本当に久しぶりだ。スウェンマリナでの初デートが懐かしい。
アゼルは視察という名目がないと俺をデートに誘えないので、城下街とは言え純プライベートデートは珍しいんだ。
ふたりっきりで出かけるなんて、すこぶる貴重だぞ。ウキウキだ。
とはいえ、俺が隣にいるイコールと浮かれたせいで魔力がダダ漏れのため、プライベート関係なく民衆にモロバレなわけだが……。
まあそれはご愛嬌としておこう。
お陰様でごく自然な動きで円形に避けられるので、動きやすいのが悲しい。歩く爆発物、触るな危険状態だ。
ちなみになぜ日が沈む前に大団円を迎えたのに、ナイトデートと化しているのかというと──理由は簡単。
リューオに対抗心を燃やしてしまったアゼルが、衣装ルームからしばし出てこなかっただけである。
嫉妬心と独占欲のチャンポンを発揮しないよう、しこたま抱きしめたんだが……。
それとこれとは別らしい。アゼルはああ見えて勤勉で努力家なんだ。
アゼルは「魔王感消して王子感出してくる」と戦場にでも行くような面持ちで衣装ルームに行った。
その目つきと闇オーラの魔王感が凄かったな。うぅん、根っから魔王なんだな。闇魔力を持っているからかもしれない。
俺も今日はちょっといい服を着てきたのだが、なんだか魔王を迎える勇者なのだからと、気合を入れなおしてしまった。
そうしてしばらく後に出てきた、おめかしスタイルのアゼル。
結論だけ言うと、流石の美男子っぷりだった。
黒のジャケットにベスト、パンツと、作りのゴツい革靴。
グレーのシャツは裾が白く折り返しがあって、手首の俺があげたものや、自前のブレスがチラ見えする。
髪もオールバックで柔らかくなでつけ、冷たく見えがちな鋭い瞳を映えさせた。
アゼルはいつものアジアンテイストな格好ではなく、夜会に行く時のようなきちっとしたものにしたのだと、胸を張っていたのだが。
当然、俺の第一感想は魔王でも王子でもなく。控えめに言っても、〝夜の帝王かな?〟だった。
だってな、癖で不意に目を細めて見下したような角度を取るから、仏頂面と相まって威圧感マシマシなのだ。
ホストとはまた違うが、夜のお店をいくつか経営してそうなナイトエンペラー感が大いにある。ううん、かっこいい。
この格好なら似合うだろうな、と好奇心で「俺のことを口説いてみてくれないか?」と言ってみたりしたぞ。
するとほんのりと赤くなって「そっそんな照れくさいこといきなりできねぇだろ……っ!」とそっぽを向かれてしまった。
うん、やはりどんな格好をしていても中身はアゼルだ。アゼルは照れ屋なのだ。かわいいぞ。
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