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後話 受難体質大河勝流

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 だけどふとした瞬間──こうやって共にいることが奇跡的だと思い出して、今に感謝するわけで。

 文句を言ってアゼルが口を滑らせると、俺は拗ねる。
 そうするとアゼルが謝る。俺は許す。

 アゼルが口を滑らせた時、俺は〝同じだけの好意を返してもらえる奇跡〟を実感するのだ。

 いくら俺だけが好きだと言っても、アゼルが俺もと返してくれなければ、この日々はないものになる。

 出会ってからこれまで積み重ねてきた時間。
 それは一人で抱えるにはあまりにも幸福で、重すぎるものだろう?

 そうして考えると、自然と涙が出そうになる。
 俺が涙しそうになると、アゼルは気づく。

 不合理な日常会議はここまでにしよう。
 二人寄り添って笑うほうが、ずっと有意義な日常会議だからと。

 慣れてしまうものの大切さ。尊さ。愛しさ。全部大事だ。忘れちゃいけない。

 毎日二人でいて「今日もお前と共に存在することに奇跡を感じた!」なんてことはなくなっても。

 ふとした時に、俺はアゼルを愛おしいと思い、その気持ちに感謝する。

 それも大事。たまにでいい。

 くだらないけれど大事な真剣勝負をして、勝敗が決したら後先考えないめちゃくちゃなセックスをする。

 疲れ果てたら思い出話に花を咲かせて、抱き合いながら共に眠る。

 そんな日々は当たり前になっていても、いつだって幸せなことだ。

 なにもわざわざ不幸にならなくたって、すれ違わなくたって、今ある幸せに気づくことはできる。アゼルがいれば。

〝恋は、時間をかけると愛になる〟

 チープな恋物語にありそうなものだが、俺はそういうのが好きだな。

 凝ったセリフは上手く言えない。
 ふふふ、試してみようか?

「──月が綺麗ですね」
「? ……です……? なんでだ」

 うつらうつらと眠気を感じつつも、思い立ってそんな文豪の愛の言葉を吐いてみた。

 寝たフリをしていたアゼルが目を開いて、不満げに眉を垂らす。

 アゼルは俺が寝るまで大抵起きているんだ。夜行性だからだと思っている。

「俺の故郷の、愛の言葉だ」
「ん゛……そ……、わかりにくいだろ、それ」
「うん……控えめな種族だからな……」

 過激な誘い文句なんてない、シャイな故郷のシャレた言葉。やっぱり俺には難しい。

 けれど月夜の似合う男には、ピッタリの言葉だと思うんだ。月はお前だぞ。

 俺は目を閉じて、そっと笑う。

 あぁ、夢の世界にダイブしそうだ。俺の居場所は寝心地が良すぎる。

「今日下見に行っただろう……? 夜でもいいから、その内お休みを取ってくれたらな……一緒に、デートに行こう」
「明日休む」

 微睡みの中に落ちていった俺は、アゼルに返事を返すことができなかったけれど、これも幸福な終日だろう。

 甘く幸せな気持ちに包まれて、俺は目まぐるしかった一日を、閉じたのだった。


 後話 了



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