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後話 受難体質大河勝流

02

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「ふ……」
「よし」

 口以外動かさない心意気で、最後の一口をコクリと飲み込む。

 食事を終えると、アゼルはようやく空になった皿とスプーンを置いた。

 ほっと胸をなでおろす。

(普段はハニカミ屋で素直じゃないくせに、こういうお仕置きをする時だけは、強引で意地悪だからな……)

 空いた食器を浮かせて、台車に移動させた。
 食器を片付けたテーブルには、いつものデザートの桃と果実水だけが乗っている。

「シャル」
「ん……?」

 一息ついた俺に、アゼルが声をかけた。
 そしてその手は、トントンと自分の膝を叩いている。

(……なんのトントンだ)

 俺は、口の中を弄ばれて少し赤くなっている顔を、くしゃりと歪ませた。

 今夜ばかりは、わかりやすく顔に〝困ります〟と書いておきたい。

 だがアゼルはあえて無言のまま、にまーっと口角を上げて、またトントンと膝を叩く。

(ぅ、く……っ!)

 あっちの顔にはわかりやすく〝別に来なくてもいいけど、後で触ってやらねぇぞ〟と書いてあるのが悔しい。

 俺が逆らってこのまま悶々と身を固め、黙ってアゼルの隣で眠るなんて拷問、されたいわけがない。

 それを知っているくせに、卑怯だ。

「は、……く……」

 俺はどうにか立ち上がり、そろそろと慎重に足を滑らせる。

 そしてアゼルの温かい膝に、横向きの体勢でそーっと体を下ろした。

 チョロくない。
 チョロくないぞ。

 これでも元勇者。
 魔王を尻に敷くなんて、なかなかできることじゃない。

(だ、だから機嫌良く腰を抱くのをやめてほしい……!)

「っ、っぅ……っ、ちゃんと触らないなら、あんまりその、触らないでくれないか……っ」
「俺はお前が落ちないように、抱いてやってるだけだぜ。むしろ健全な俺の善意に、触られただけで感じてるお前が悪い」
「ん、ん? ……そ、うか……?」

 アゼルは尻尾があればそれはもうはちきれんばかりに振っているだろうほど、見事なニヤニヤっぷりである。

 その暴論に、俺はあまり余裕もないのであっさり丸め込まれてしまった。

 そうか。俺が今感度アップのムラムラ状態異常なだけで、俺をアゼルが抱きしめるのはいつものことだ。

 アゼルは俺を丸め込むと、テーブルの桃を一つフォークで刺しパクリと食べる。

 また卑猥なあーんをされるのかと思った俺は、安堵の息を吐いた。

 残念ながら俺はキスのされ過ぎで、口の中も割と感じるんだ。

 だがしかし。

 アゼルは口に入れた桃を飲みくださず、フォークを置いて俺の頭を引き寄せる。

「っん……! ふ……っ」

 息がかかるような至近距離。
 間を置かずに重なった唇。

 それを介して、甘く熟した果肉と熱い肉厚の舌が、一緒くたに入り込んできた。

 一欠片ぶんの桃を全て飲み込まさせられると、果汁と唾液が混ざり合い、甘い吐息と共に口の端から流れおちる。

「は、っ、ん、ぅ……」
「ふ……ククク、ちゃんと噛めよ。喉に詰まるぜ」
「ンン……っ」

 ペロリとこぼれた果汁ごと顎から首筋を舐められ、ビク、と快感が走った。

(や、やっぱり卑猥なあーんだったじゃないか……! 俺の安堵を返してくれ……!)



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