本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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後話 受難体質大河勝流

03

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 俺は頬を上気させて眉を垂らし、勘弁してくれとばかりに目で訴える。

 だがアゼルは追加の桃を「ん」と差し出し、俺に楽しく餌付けをしてきた。
 もちろん口で差し出している。

 確かに、アゼルの機嫌がいいと俺は嬉しいが……できれば普通に、普通にしてほしい。

 けれど相手はスキルに変態があるぐらい、生まれつきの変態さんである。

「ぁ、ん……ん、」

 抵抗する術を持たない俺は身を固くし、どうにかこうにか口移しで桃を食べ進めた。

 食事前に注がれた毒は熱を発散しなくとも、時間が経てば少しずつだが徐々に冷めていく。

 この腰や腹筋をさわさわとなでる手を我慢すれば、どうにか……。

「くっ、っ、ぅ……っ」
「フフン、顔が赤いぜ? 脱がせてやろうか?」
「ン、も、手を入れるんじゃない……っ」
「そんな顔するのが悪い」

 なんで全部俺のせいなんだ。

 最後の一つを咀嚼し飲み下すと、アゼルはシャツの隙間から手を入れて、腹筋や臍をなで回す。

 俺は指先からゾクゾクと痺れる感覚に、もじもじと足をすり合わせた。

 少し芯を持ち始めた中心をチュニックのようなシャツの裾を引っ張り、さり気なく隠す。……たぶん、バレている。

「熱いなら水飲むか?」とニヤリと笑みを浮かべられ、俺はとんでもないと首を横に振った。

 水でもなんでもアゼル経由なのは、お察しなのだ。 

「うぁっ」

 服の中をはっていた手がついにキュッと胸の突起を摘み、一際大きな声が漏れた。

 そこに手を出し始められると、誤魔化し誤魔化ししていた俺は、もう平静を装ってこの後もお仕置きを受けられる気がしない。

 だめだ、観念しよう。

 ここは素直に謝罪して、他のお仕置きなら受けるから抱いてほしいと、伝えるのだ。

 俺は裾を押さえている手と違う手でアゼルの服を摘み、楽しそうなアゼルに向かって腹を括り、火照った顔を向けた。

「アゼル、もう……っ」
「おっと、それは駄目だぜ。」

 だが降参する前に、アゼルはキッと睨んで俺のセリフを遮った。

「な、なんでだ……!?」

 思ってもいない言葉に、俺はクシャリと情けない顔をする。

 額の鬼の角が犬耳的な役割を持つなら、ションボリと垂れていただろう。

 そんなこと言われたらこのゲー厶、撤退は許されない背水の陣じゃないか。

 弱り果てる俺に、アゼルは支える手で腰をなで、もう片手で乳首をグリグリ弄りながら、真剣な顔をする。

 グリグリはやめてほしい。
 気持ちいいからやめてほしい。

「お前に強請られたら、拒否し切る自信がねぇかんな。俺の楽しみが終わるだろうが! だからオネダリ禁止だぜ!」
「ひっ、な、なんて恐ろしいことを……! っう、こ、この魔王めっ!」
「クックック、せいぜい俺の理性が飛ぶように祈ってるがいい……! これを機に、俺が旦那でお前が嫁だとわからせてやる。関白宣言だ、覚悟しろよ?」
「ン……ッあ、っくっお前が嫁だ……ッ」

 クククと黒い魔王スマイルで恐ろしいことを言うアゼルに、俺は悶えつつも、そういうことならばとキッと睨んで、覚悟を決めた。

 毒に耐えられず俺の理性が飛ぶ前に、アゼルの理性を飛ばし手を出させたら勝ちか。なるほど。

 直接的なオネダリはできなくとも、俺の砂粒のような色気を掻き集めて押し倒させて見せる。

 それにアゼルは大抵俺より後に起きるが、俺より先には殆ど寝ない。

 いつも綺麗で、一発でお菓子を作れるのだからきっと食事もうまく作れる。

 歌詞的にどう考えてもアゼルが嫁だ。まさしは俺だ。

「リベンジだ。風呂に、入るぞ……っ」
「受けて立つぜ。その鬼角、ピカピカにしてやるからな……!」


 かくして──お仕置きと言う大義名分を忘れた男たちの戦いが、今、始まる。

 アゼルは魔王で、俺はその妃の元勇者で、俺たちは立派な成人男性。

 そして昼間に修羅場を繰り広げたばかりの、ホットな夫夫であるが。

 二人っきりの私室では、ヒートアップした俺たちにそれをツッコんでくれる勇者はいないのであった。



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