上 下
394 / 901
後話 受難体質大河勝流

03

しおりを挟む


 俺は頬を上気させて眉を垂らし、勘弁してくれとばかりに目で訴える。

 だがアゼルは追加の桃を「ん」と差し出し、俺に楽しく餌付けをしてきた。
 もちろん口で差し出している。

 確かに、アゼルの機嫌がいいと俺は嬉しいが……できれば普通に、普通にしてほしい。

 けれど相手はスキルに変態があるぐらい、生まれつきの変態さんである。

「ぁ、ん……ん、」

 抵抗する術を持たない俺は身を固くし、どうにかこうにか口移しで桃を食べ進めた。

 食事前に注がれた毒は熱を発散しなくとも、時間が経てば少しずつだが徐々に冷めていく。

 この腰や腹筋をさわさわとなでる手を我慢すれば、どうにか……。

「くっ、っ、ぅ……っ」
「フフン、顔が赤いぜ? 脱がせてやろうか?」
「ン、も、手を入れるんじゃない……っ」
「そんな顔するのが悪い」

 なんで全部俺のせいなんだ。

 最後の一つを咀嚼し飲み下すと、アゼルはシャツの隙間から手を入れて、腹筋や臍をなで回す。

 俺は指先からゾクゾクと痺れる感覚に、もじもじと足をすり合わせた。

 少し芯を持ち始めた中心をチュニックのようなシャツの裾を引っ張り、さり気なく隠す。……たぶん、バレている。

「熱いなら水飲むか?」とニヤリと笑みを浮かべられ、俺はとんでもないと首を横に振った。

 水でもなんでもアゼル経由なのは、お察しなのだ。 

「うぁっ」

 服の中をはっていた手がついにキュッと胸の突起を摘み、一際大きな声が漏れた。

 そこに手を出し始められると、誤魔化し誤魔化ししていた俺は、もう平静を装ってこの後もお仕置きを受けられる気がしない。

 だめだ、観念しよう。

 ここは素直に謝罪して、他のお仕置きなら受けるから抱いてほしいと、伝えるのだ。

 俺は裾を押さえている手と違う手でアゼルの服を摘み、楽しそうなアゼルに向かって腹を括り、火照った顔を向けた。

「アゼル、もう……っ」
「おっと、それは駄目だぜ。」

 だが降参する前に、アゼルはキッと睨んで俺のセリフを遮った。

「な、なんでだ……!?」

 思ってもいない言葉に、俺はクシャリと情けない顔をする。

 額の鬼の角が犬耳的な役割を持つなら、ションボリと垂れていただろう。

 そんなこと言われたらこのゲー厶、撤退は許されない背水の陣じゃないか。

 弱り果てる俺に、アゼルは支える手で腰をなで、もう片手で乳首をグリグリ弄りながら、真剣な顔をする。

 グリグリはやめてほしい。
 気持ちいいからやめてほしい。

「お前に強請られたら、拒否し切る自信がねぇかんな。俺の楽しみが終わるだろうが! だからオネダリ禁止だぜ!」
「ひっ、な、なんて恐ろしいことを……! っう、こ、この魔王めっ!」
「クックック、せいぜい俺の理性が飛ぶように祈ってるがいい……! これを機に、俺が旦那でお前が嫁だとわからせてやる。関白宣言だ、覚悟しろよ?」
「ン……ッあ、っくっお前が嫁だ……ッ」

 クククと黒い魔王スマイルで恐ろしいことを言うアゼルに、俺は悶えつつも、そういうことならばとキッと睨んで、覚悟を決めた。

 毒に耐えられず俺の理性が飛ぶ前に、アゼルの理性を飛ばし手を出させたら勝ちか。なるほど。

 直接的なオネダリはできなくとも、俺の砂粒のような色気を掻き集めて押し倒させて見せる。

 それにアゼルは大抵俺より後に起きるが、俺より先には殆ど寝ない。

 いつも綺麗で、一発でお菓子を作れるのだからきっと食事もうまく作れる。

 歌詞的にどう考えてもアゼルが嫁だ。まさしは俺だ。

「リベンジだ。風呂に、入るぞ……っ」
「受けて立つぜ。その鬼角、ピカピカにしてやるからな……!」


 かくして──お仕置きと言う大義名分を忘れた男たちの戦いが、今、始まる。

 アゼルは魔王で、俺はその妃の元勇者で、俺たちは立派な成人男性。

 そして昼間に修羅場を繰り広げたばかりの、ホットな夫夫であるが。

 二人っきりの私室では、ヒートアップした俺たちにそれをツッコんでくれる勇者はいないのであった。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...