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後話 受難体質大河勝流
01
しおりを挟むあれから紆余曲折──どうにか城に帰ることができた。
変装までしてデートの下見に行ったのに、まさかの結末だ。
突然たまたま近くに用があったらしいアゼルに、俺は浮気だとか無防備だとか叱られ、困惑である。
アゼルは俺を抱きしめ、ゼオを威嚇し、警戒心マックスだ。
ゼオは「魔王様が愛している人を奪うほど、生き急いではないです」と相変わらずの無表情でどうどう、と宥めていた。
そしてリューオは、最後まで路地裏から出てこなかったぞ。
うう、濃い。なんとも言えない味付けの街ブラだったな……。
だがまぁ、総合すると楽しかった。
城下街は見どころ満載で、新たな出会いもあり、素敵なお土産も買えた。
大満足だ。
──大満足、なんだが。
「シャル、食事がまだ終わってねぇぞ」
「きょ、今日はそんなに、腹が減らない……」
わかっているくせに白々しく急かすアゼルに、俺は言い訳を口ごもらせながら、シチューをすくって口腔へ運ぶ。
いつもならきっと、トロミのある濃厚なシチューに心躍ったはずだろう。
今は味なんて、ちっともわからない。
理由はもちろん──このスイッチが入った魔王様のお仕置きによるわけで。
理性を失い貧血になるほどじゃないが、しっかり体がその気になってしまうような吸血で、催淫毒がまわっているからだった。
アゼルは俺が気持ちいいことに弱いと知っているので、疼く体を持て余している様を、眺めているのである。
自分で慰めるのも、触れるのも禁止。
かといって手を出してはくれないので、生殺し状態だ。
服がこすれると変な声が漏れそうなので、あまり動きたくない。
だがディナーを終えるまで、目の前の魔王様は席を立たせてくれないだろう。
なるべくそっと腕を動かし、残り僅かなシチューを懸命に食べる。
火照った体にため息を吐きたくなった。
気合を入れれば我慢できる範囲だが、そういつまでもできるものでもない。
「ン……、ん……」
「クク。風呂にもいれてやんねぇとだからな、俺が手伝ってやる」
「! いや大丈、ンぐ」
俺はどうにか食事をつつがなく終えようと、ささやかに足掻いた。
けれどのたのたと覚束ない俺をニヤニヤと眺めていたアゼルが、俺の手からスプーンを奪う。
そしてシチューをすくい、俺の口元へ突っ込んだ。
「ふ、っ」
口端から溢れるシチューを指先がすくって、舐めとる。
不意の他人からの刺激で舌が痺れたような感覚に陥り、ビクッと一瞬体がはねた。
くそう、面白がっているな。
「口開けろよ、また零すぞ?」
「ン、自分でやるから、もご、」
「オイ、俺のあーんじゃ不満だっていうのかよ」
「そうじゃないが……っ」
輝いている。
アゼルが今日一番輝いているぞ。
俺はわざと舌や顎の襞を擦ってくるスプーンに追い詰められながら、膝に両手をおいてやけっぱちになりつつ食事を進めた。
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