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七皿目 ストーキング・デート
30(sideリューオ)
しおりを挟む少女の家についたリューオは、ユリスはいないがもう勘違いされたくなくて、家の中に入るのは拒否した。
しょんぼりしたまま玄関に買ったものをどんどんと取り出し、しょんぼりしたまま玄関から出る。
シャルやアゼルが今のリューオを見れば、槍が降るのかと空を見上げたに違いない。
それほど凹むリューオというものは、レアな光景だった。
まぁ実際二人がそうすれば殴るのだが。
そんな珍しく落ち込むリューオを見て、少女は腕を組んで頬を膨らませ、傷心に押せとばかりに詰め寄った。
「オーガさん! あのケートスは恋人だったんですか?」
「馬鹿野郎ォォォォそんなわけあるかぁぁぁぁそうだったらいいのになぁぁぁ……!」
「ちゃんとこっちを見てください!」
だめだ。傷心モードすぎる。
グイ、とため息まじりにへこたれるリューオの首を掴み、前を向かせる少女。
「じゃあ私と付き合いませんか?」
「無理」
「ええっなんで!? これお願いしますの流れじゃないですか!?」
満を持した告白は、かなりの勝率を目論んで押したのに、間髪入れずにバッサリとお断りされてしまった。
少女は告白をお断りされ、信じられないとばかりに目を見開き、自分の頬に両手を添える。
自分は好きな人に似ている上に、彼は暫定失恋中。
この状況でなぜ断られるのか。
リューオからすればそれは当然だ。
どう熱りが冷めてから誤解を解こうか考えているのに、他の人と付き合う意味がわからない。
だって彼女はユリスではないのだ。
今のリューオが頷く告白の最低ラインは〝相手がユリス〟である。
「ンな流れねェわッ! なんでってなんだよッ! 無理なもんは無理だバァカッ!」
ユリスになって出直してこい!
いやユリスになっても中身がユリスでなければノーサンキューだが。
少し八つ当たりが入っているが、リューオはきちんと重ねてお断りをした。
すると少女は納得いかない! と地団駄踏んでさらに詰め寄る。
なんでだよ。納得しろ。
お断りしたのにその反応に、流石のリューオも後ずさってしまった。
強い。魔族の女は押しが強い。
「納得のいく理由を教えてください! 種族も見た目もほぼ同じで私のほうがおっぱいあります!」
「おっぱいは関係ねえだろ!」
「それ以外でどこが関係あると!?」
「この世の全ての貧乳に謝れ!」
ギャーギャーと玄関先で言い合う二人。
付き合ってください、いやだ、納得いきません、意味わかんねぇ、とどちらも譲らない押し問答。
なんで理解しねェんだ。
ユリスが好きでおっぱいもどうでもいいからダメ。わかりやすいはずだぞ。
(これ以上俺にどうしろって言うんだよオイ……ッ!?)
リューオは黙って寝ていればイケメンだが、目を開くと三白眼で顔が怖いのでモテたことがない。
慣れない修羅場に助けを求めて、あたりにキョロキョロ視線を飛ばす。
すると──見覚えのあるようなないような男が、奇術館の裏口から飛び出してくるのが見えた。
シャープな輪郭と鋭い瞳に尖った鼻梁と、ムカつくくらい整った美形。
黒いサラフワのミディアムヘアに、いつもの執務用のアジアンテイストな衣服。
そして謎の蝶ネクタイ。
シャラシャラとアクセサリーを揺らすその男の頭には、なぜか狼の耳とワインレッドのシルクハット。
チラチラ後ろに見えるのは尻尾か。
「魔、っじゃねぇワン公!」
「誰がワン公だコラァ!」
こっちにこいと必死に手をこまねくリューオにガウッと吠えたのは、妙ちきりんな格好だが──確かに魔王だった。
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