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七皿目 ストーキング・デート

28(sideリューオ)

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 ──数時間後。

「んん~コレとコレならどっちかなぁ~」
「面倒くせぇな、どっちでもいいから早く選べよ……ッ!」

 和気あいあいとしていたはずの二人だが、一転。

 大きなドレッサーの前でかれこれ一時間以上悩む少女に、気の短いリューオは、顔にイライラを貼り付けていた。

 女が好きそうな桃色のメルヘンなドレッサーと、ウッド調のカントリーなドレッサー。

 どっちでもいい。
 と言うか言わせてもらえるなら、どっちも興味ない。

 リューオはいくらか話したこの少女が嫌いじゃないが、買い物の長いやつはみんな嫌いだ。

 本音を言うと、待つのが嫌いだった。

「魔導小型加湿器に、加速ハイヒールに、魅了香水! 全部一時間近く迷った上に締めがコレかよ! これ以外持ち帰れるじゃねぇかテメェ、ついでに買う魂胆だったな!?」
「いいじゃないですかぁ、どうせ同じところで買うんですから~。それよりこのドレッサーどっちが私に似合いますか?」
「ドレッサーに似合うとかねぇわアホ女!」

 ガオガオと吠えるリューオを素知らぬ顔でかわした少女は、やれやれと呆れたように溜め息を吐く。

 吐きたいのはこっちだコラ。
 チッと舌打ちをする。

 しかし少女は、そうは言いつつも律儀に待ってくれていたリューオに、内心で微笑んだ。

 買い物に付き合ってくれる人が欲しかっただけだが……このオーガはいい人だ。

 少女はリューオとじゃれ合うのは、意外と楽しいと思っていた。

 彼がフリーなら狙おうかな、という思考が過ぎるくらいには。

「もう、あなたが決めたほうを買いますよ。決めてください。ちゃんと考えてね?」
「チッ!」

 リューオは少女の言葉に文句を飲み込んで、カントリーなほうのドレッサーを抱える。

 なるほど。
 そっちが好みなのかな。

 あまりかわいいを押し出したものは好きじゃないのかと頷き、少女はカウンターに歩いていくリューオを、軽い足取りで追いかけた。



 そうして、会計を終わらせた後だ。
 これでさよならとはいかない。

 買った物を一旦リューオの召喚魔法でしまって、少女の家へ運ぶことになった。

「お前の家どこなんだよ」
「ここからちょっと行ったところなんですぐですよ」
「おう。ってあぁもうくっつくな暑い!」
「ちょっとだけっいいでしょ?」
「ハァ……」

 魔導具屋の出口に向かいながら、腕を絡めてくる少女。

 リューオは抵抗を諦めて、好きなようにさせる。言っても聞かないのだ。

 普段は口と目つきが悪いからと女性には怖がられていたので、魔族女性のこの強引さは慣れない。

 逆らうほうが疲れる気がして、もう後少しで終わるからと納得することにする。

 そんなリューオが前を向くと──入り口に今まさに入店しようという少年が、一人見えた。

「…………」

 瞬間──ギョッと目を見開いて、わなわなと震えるリューオ。

 入って来たのが誰か、わからないような距離じゃない。
 ならば今度こそ、間違いではないだろう。

 なぜ、こんなところに。
 いや、こんなタイミングで。

 じっと目を丸くしてこちらを見つめていた彼は、自分に気付いたリューオに、スッと目を細める。


「……ふぅん、変装までして街で火遊び?」

〝本物のユリスが現れた!
 リューオはどうする?〟


 少年──ユリスが声を発した途端、リューオの脳内で、そんなアナウンスが盛大に流れてしまった。

 凄まじいバッドタイミング。
 これが間違いだったらどれほどよかったか。

 最早変装が一瞬で見破られたことよりも、この状況を見られたことに、言葉も出なかった。



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