387 / 901
七皿目 ストーキング・デート
28(sideリューオ)
しおりを挟む──数時間後。
「んん~コレとコレならどっちかなぁ~」
「面倒くせぇな、どっちでもいいから早く選べよ……ッ!」
和気あいあいとしていたはずの二人だが、一転。
大きなドレッサーの前でかれこれ一時間以上悩む少女に、気の短いリューオは、顔にイライラを貼り付けていた。
女が好きそうな桃色のメルヘンなドレッサーと、ウッド調のカントリーなドレッサー。
どっちでもいい。
と言うか言わせてもらえるなら、どっちも興味ない。
リューオはいくらか話したこの少女が嫌いじゃないが、買い物の長いやつはみんな嫌いだ。
本音を言うと、待つのが嫌いだった。
「魔導小型加湿器に、加速ハイヒールに、魅了香水! 全部一時間近く迷った上に締めがコレかよ! これ以外持ち帰れるじゃねぇかテメェ、ついでに買う魂胆だったな!?」
「いいじゃないですかぁ、どうせ同じところで買うんですから~。それよりこのドレッサーどっちが私に似合いますか?」
「ドレッサーに似合うとかねぇわアホ女!」
ガオガオと吠えるリューオを素知らぬ顔でかわした少女は、やれやれと呆れたように溜め息を吐く。
吐きたいのはこっちだコラ。
チッと舌打ちをする。
しかし少女は、そうは言いつつも律儀に待ってくれていたリューオに、内心で微笑んだ。
買い物に付き合ってくれる人が欲しかっただけだが……このオーガはいい人だ。
少女はリューオとじゃれ合うのは、意外と楽しいと思っていた。
彼がフリーなら狙おうかな、という思考が過ぎるくらいには。
「もう、あなたが決めたほうを買いますよ。決めてください。ちゃんと考えてね?」
「チッ!」
リューオは少女の言葉に文句を飲み込んで、カントリーなほうのドレッサーを抱える。
なるほど。
そっちが好みなのかな。
あまりかわいいを押し出したものは好きじゃないのかと頷き、少女はカウンターに歩いていくリューオを、軽い足取りで追いかけた。
そうして、会計を終わらせた後だ。
これでさよならとはいかない。
買った物を一旦リューオの召喚魔法でしまって、少女の家へ運ぶことになった。
「お前の家どこなんだよ」
「ここからちょっと行ったところなんですぐですよ」
「おう。ってあぁもうくっつくな暑い!」
「ちょっとだけっいいでしょ?」
「ハァ……」
魔導具屋の出口に向かいながら、腕を絡めてくる少女。
リューオは抵抗を諦めて、好きなようにさせる。言っても聞かないのだ。
普段は口と目つきが悪いからと女性には怖がられていたので、魔族女性のこの強引さは慣れない。
逆らうほうが疲れる気がして、もう後少しで終わるからと納得することにする。
そんなリューオが前を向くと──入り口に今まさに入店しようという少年が、一人見えた。
「…………」
瞬間──ギョッと目を見開いて、わなわなと震えるリューオ。
入って来たのが誰か、わからないような距離じゃない。
ならば今度こそ、間違いではないだろう。
なぜ、こんなところに。
いや、こんなタイミングで。
じっと目を丸くしてこちらを見つめていた彼は、自分に気付いたリューオに、スッと目を細める。
「……ふぅん、変装までして街で火遊び?」
〝本物のユリスが現れた!
リューオはどうする?〟
少年──ユリスが声を発した途端、リューオの脳内で、そんなアナウンスが盛大に流れてしまった。
凄まじいバッドタイミング。
これが間違いだったらどれほどよかったか。
最早変装が一瞬で見破られたことよりも、この状況を見られたことに、言葉も出なかった。
41
お気に入りに追加
2,662
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる