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七皿目 ストーキング・デート
27(sideリューオ)
しおりを挟むハッとしたリューオは、すぐに壁ドンをやめ、少女の体をなるべくそっと押し返した。
道行く魔族たちが、ジロジロと如何わしそうに見ている。往来で女にこれはまずい。
「あーいや、悪ィ、人違いだわ。だから離してくんねェ?」
「やだ、あんなことしておいて間違いだから捨てようなんて、酷い人……」
「待て待て言い方ァ!」
「愛してるって言ってくれたのに?」
「間違いだっつってんだろ!?」
しかしなぜか一向に離してくれない少女に、リューオは女じゃなければ引き剥がしてるのにと、ままならない現状にジレジレと焦る。
魔族の女性は押しが強くて大胆。
お世話になっている陸軍の長官にそんなことを聞いていたが、まさかこれほどとは。
首に抱きつく少女はオーガ姿のリューオ相手なのでブラブラ浮いていて、引っ張ろうにも掴みにくい。
いや、だって腰とか腹とか、やりにくいだろう。
困惑するリューオに、少女はクスクスと笑って茶目っ気たっぷりにウィンクした。
「ねぇ、お買い物に付き合ってくれませんか? 欲しいものがあるんですけど、私じゃ重たくて持ち帰れないので、お手伝いして下されば許してあげます」
「アァ?」
ギロッと持ち前のヤンキーフェイスで睨んでしまったリューオを怖がらず、ニコニコと笑う少女。
自分の顔や態度を怖がらない女は、そういない。
内心で少し好感度が上がる。
そもそもリューオにはいつも──明確な意志がある。
それはなにか。
自分の行動で起こったことは、自分の責任ということだ。
例えば無理矢理異世界トリップさせられたのはリューオの行動のせいじゃないので、不快だった。
他人のせいで起こった物事だ。
王の話を聞いて魔界に来たのは自分なので、嘘を吹き込まれ都合良く担がれたのは、別に気にしていない。
これは鵜呑みにした自業自得だ。
そんなルールに乗っ取ると……今回は自分が人違いをして見知らぬ少女を掴みあげ、壁ドンをキメたのが発端である。
「……どこに行きゃイイんだオラ」
「そうこなくっちゃ!」
嬉しそうに笑う少女が、首から手を離して降りたので、渋々頷く。
リューオは内心で奇術館にいるはずのシャルに謝り、行動の責任を取ることにした。
♢
少女に連れられやって来たのは、奇術館の二軒隣にある魔導具屋だった。
ちなみに魔導具とは、そのまま魔力を使う雑貨ということである。
「私は魔力があまりないので、召喚魔法域も隙間がなくて……後、整理が苦手」
「どう考えてもそれだろ容量不足」
てへぺろ、と笑う少女の額に軽くデコピンをすると「乙女の額になんてことをっ!」とポカポカ殴ってきたがリューオにはノーダメージだ。
余裕でニヤニヤするリューオにぷく、と頬を膨らませ、少女は目当ての魔導具のところへ歩いていくから、笑いながら追いかける。
妹を持ったようで、少し楽しかった。
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