上 下
387 / 902
七皿目 ストーキング・デート

27(sideリューオ)

しおりを挟む


 ハッとしたリューオは、すぐに壁ドンをやめ、少女の体をなるべくそっと押し返した。

 道行く魔族たちが、ジロジロと如何わしそうに見ている。往来で女にこれはまずい。

「あーいや、悪ィ、人違いだわ。だから離してくんねェ?」
「やだ、あんなことしておいて間違いだから捨てようなんて、酷い人……」
「待て待て言い方ァ!」
「愛してるって言ってくれたのに?」
「間違いだっつってんだろ!?」

 しかしなぜか一向に離してくれない少女に、リューオは女じゃなければ引き剥がしてるのにと、ままならない現状にジレジレと焦る。

 魔族の女性は押しが強くて大胆。

 お世話になっている陸軍の長官にそんなことを聞いていたが、まさかこれほどとは。

 首に抱きつく少女はオーガ姿のリューオ相手なのでブラブラ浮いていて、引っ張ろうにも掴みにくい。

 いや、だって腰とか腹とか、やりにくいだろう。

 困惑するリューオに、少女はクスクスと笑って茶目っ気たっぷりにウィンクした。

「ねぇ、お買い物に付き合ってくれませんか? 欲しいものがあるんですけど、私じゃ重たくて持ち帰れないので、お手伝いして下されば許してあげます」
「アァ?」

 ギロッと持ち前のヤンキーフェイスで睨んでしまったリューオを怖がらず、ニコニコと笑う少女。

 自分の顔や態度を怖がらない女は、そういない。
 内心で少し好感度が上がる。

 そもそもリューオにはいつも──明確な意志がある。

 それはなにか。
 自分の行動で起こったことは、自分の責任ということだ。

 例えば無理矢理異世界トリップさせられたのはリューオの行動のせいじゃないので、不快だった。

 他人のせいで起こった物事だ。

 王の話を聞いて魔界に来たのは自分なので、嘘を吹き込まれ都合良く担がれたのは、別に気にしていない。

 これは鵜呑みにした自業自得だ。

 そんなルールに乗っ取ると……今回は自分が人違いをして見知らぬ少女を掴みあげ、壁ドンをキメたのが発端である。

「……どこに行きゃイイんだオラ」
「そうこなくっちゃ!」

 嬉しそうに笑う少女が、首から手を離して降りたので、渋々頷く。

 リューオは内心で奇術館にいるはずのシャルに謝り、行動の責任を取ることにした。


 ♢


 少女に連れられやって来たのは、奇術館の二軒隣にある魔導具屋だった。

 ちなみに魔導具とは、そのまま魔力を使う雑貨ということである。

「私は魔力があまりないので、召喚魔法域も隙間がなくて……後、整理が苦手」
「どう考えてもそれだろ容量不足」

 てへぺろ、と笑う少女の額に軽くデコピンをすると「乙女の額になんてことをっ!」とポカポカ殴ってきたがリューオにはノーダメージだ。

 余裕でニヤニヤするリューオにぷく、と頬を膨らませ、少女は目当ての魔導具のところへ歩いていくから、笑いながら追いかける。

 妹を持ったようで、少し楽しかった。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

リオ・プレンダーガストはラスボスである

BL / 連載中 24h.ポイント:31,596pt お気に入り:1,821

推しを陰から支えるのが僕の生きがいです。

BL / 完結 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:6

普通の学園生活を送っていたはずなんだが???

BL / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:311

私を愛して下さい イチャラブしたこと無いんです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:424

悪妻なので離縁を所望したけど、旦那様が離してくれません。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,754pt お気に入り:4,594

敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい

BL / 完結 24h.ポイント:1,420pt お気に入り:373

処理中です...