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七皿目 ストーキング・デート

26(sideリューオ)

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 ──同時刻・路地裏。

「あぁぁ~やっちまった。あーあ」

 こっそりと様子を見ていたリューオは、路地裏から飛び出して行った魔王が壁にクレーターを作る様に、あちゃーと頭を抱えて現状から目をそらす。

 飛び出そうとするのを、もう何度も押さえつけていたのだ。

 けれどなんだか見つめ合い、今からキスでもするのかという雰囲気に、嫉妬深い魔王は限界だった。

 独占欲で魔力がダダ漏れの魔王によってウゲッ! と驚愕した街行く魔族たち。

 クモの子散らすように無人サークルを形成するのを尻目に、同じく修羅場に関わりたくないリューオは路地裏に頭を引っ込める。

 リューオは知らないが──城下街の魔族たちは、シャルを飼い始めた魔王が早々に手出し無用、文句はタイマンと脅しをかけられたらしく、訓練された優秀な逃げ足を持つのだ。

 本当に、あれで相思相愛じゃなければもしポリ案件である。職質逮捕間違いなし。

「ストーカーガチ勢怖ァ……」

 リューオは召喚魔法で昼間買い込んだ串焼きを取り出し呑気に食べながら、ストーカー魔王とここまで来るに至った経緯を思い返す。

 それは長く濃厚で精神を削り取られるような、リューオ史上五本の指に入るほど波乱万丈な時間だった。


 ◇


 時は遡ること、数時間前。

 奇術館に入ったリューオは、シャルと逸れてから入り口に戻った。

 しかしその時丁度、外を見知った犬耳美少年が通った気がしたのだ。

 他称猪突猛進脳筋勇者である彼。
 当然のように館を出て、意気揚々と追いかけた。

 デートの下見なんて関係ない。
 かわいいアイツがいたら、声をかけない理由がない。

 だって好きだから。話したいから。

 そういう原始的思考のもとホイホイ追いかけたリューオは、驚かせてやろうと後ろから腕を掴み、住居の壁にドンと追い詰めた。

 いわゆる壁ドンである。

「よう、今日も愛してるぜ」
「えっ?」
「えっ」

 そして見事に、人違いだった。

 後ろ姿は完璧にユリスだったその人は、ユリスにないはずの柔らかな胸部を持ち、柔和に垂れた丸い瞳の愛らしい少女だったのだ。

 なんてこったい。

 犬耳もイルカのような尻尾もいつものショートパンツも完璧だったのに、人違い。

 リューオは壁ドンをしたまま、フリーズした。

 使ったこともない「なんでやねん」という言葉が口から出そうなほどだ。

 だが、そんなリューオに壁ドンされた人違いの少女は、ポッと頬を染めてリューオの首に抱きつく。

「初対面なのに愛してるなんて、情熱的ですね。でも私……そういうの嫌いじゃないですよ?」
「なんでやねん」

 絞り出すようなツッコミが口から漏れてしまった。リューオは関東出身である。



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