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七皿目 ストーキング・デート
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しおりを挟む「ちなみになにが一番好きなんだ?」
「は、好物……個人の趣向ですか? 種族的にですか?」
「ん? 種族?」
俺はメニューからひょこりと顔を出して、ゼオを見つめる。
(種族的というのは……ドラゴンが肉好きとか、ワイトが生気好きとか、そういうことか?)
ゼオはトンと肘をついて、無表情のまま俺を見つめた。
それにしても、一度も表情が崩れたところを見ていないな。
「あぁ……俺、ハーフヴァンパイアなんですよ。ヴァンパイア種は、血が一番好きです」
しかしゼオの種族が明かされた途端──俺はビクッと肩をはねさせてしまった。
(吸血系の魔族さんだったのか……!)
なぜか、とことん吸血鬼に縁がある。
続く話によると、ヴァンパイアは定期的に血を飲まないといけないタイプの魔族で、ゼオも飲まなければ凶暴になるらしい。
だから日常的に口にする血液は、好みのもののほうが嬉しいそうだ。
「シャルは俺好みの、いい匂いですよね」
「いや、そ、それは俺自身とはまた違うというか、なんというかだな……」
さて。
なぜ俺がこんなにも気まずい気持ちなのか、昔聞いた話を思い出して、改めて聞いてほしい。
昔、俺のお菓子専用厨房を作る工事を手伝ってくれた、アゼルの眷族たち。
カプバットと、黒人狼という吸血系の魔族だったのだが……俺は三日ほどしか一緒にいないのに、妙に懐かれていた。
アゼルに聞くと、俺は異世界人で血が美味しい以前に、誰しもが個々に持つ体臭と言うか、所謂フェロモンが吸血系の好きな匂いだそうだ。
魔力の量で、匂いは大きくなる。
あの頃の魔封じをかけられた状態なら、眷族程度の弱い魔族しか気にならない。
魔力に魅了がかかる魔族だからこそ効くようなものらしいが、要は好意の種類は恋愛ではないが、モテやすいというわけだな。
で、今は俺の魔力がフル解放なのだ。
ハーフといえど、ヴァンパイアは魔界でそれなりに強い魔族。
ゼオがいい匂いと言ったのは、そのせいだと思う。魔力に釣られたのだ。
(……そんなものにまで効果ありなのか……?)
こうして共にいる理由が判明して、俺は少し複雑な気持ちになってしまった。
つまり俺は普通に仲良くなれたのかと思っていたが、ゼオはいい匂いがしたから気になり、構ってくれていたのだろう。
そのおかげで俺の下見に付き合ってくれているなら、なんだか罪悪感が湧き上がる。
俺というより、匂いの問題だ。
それを思うと、気まずかった。
ゼオはそう思って言い淀んだ俺を、特に気にしたふうもなく見つめる。
そして俺の内心を察した様子で、「あぁ」と漏らし、一蹴した。
「シャルの魔力の匂いですが……それを覚えていたから声をかけましたが、それ、きっかけですね」
「!」
「別にそれだけで今、会話してるわけではないです。ヴァンパイア、そんなにチョロくないですから」
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