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七皿目 ストーキング・デート
17(sideアゼル)
しおりを挟む無表情のゼオとは対照的に、キラキラと期待に満ちた目をしている俺の嫁は、騒ぐことなく開始を待っている。
かわいい。ちくしょう。存在がかわいい。あぁくそ、ムカツク。かわいい。
真顔なのに目だけキラキラしてる。かわいい。自重しろ。パチパチと拍手をしている仕草もかわいい。かわいいが過ぎる。
(お行儀よく背筋伸ばしやがって……っ! 座ってるだけでなんでそんなにかわいいんだっ!? 照明魔法がシャルの頭上には標準装備じゃねえか……っ!)
俺はあまりのかわいさに「俺の前以外でかわいいを出すな」とキレそうになった。
どうも感情が一定量を超えると、俺はキレてしまう。かわいさで殴りかかられている気分になるからだ。
しかしよく考えると、シャルは常にかわいいを出している。
アイツだけが輝いているのは、いつものことだ。なにも悪気はない。
なぜなら、生きているだけで光り輝くのがシャルである。
全俺が満場一致でシャルのかわいいをノーマルとしたため、怒りを収めた。
この間、僅か数秒。
シャルを褒め称えることを嗜む紳士的行動は、俺のノーマルだからだ。
(仕方ねぇ。ゼオが一緒にいる経緯は今夜にでも問いただすとして……仕事をするぜ)
スンッ、と真顔で背筋を伸ばす。
俺の今の仕事は、あのキラキラとした視線に応えることである。
そして一番盛大な拍手を貰って、アゼルは凄いな、と、しこたま褒めてもらうのだ。
(んんッ……闇、砕刃、乱舞)
気を取り直して、演技を始めよう。
声に出して詠唱すると威力が強くなるので、脳内で意思を固めて魔法を使う。
無数の鰹節のように細かい闇の礫を作り出すと、それを等間隔に並べ、宙に浮かばせた。
優雅な音楽とともに、リボンのようにくるくると空中で踊らせていく。
その隙に直径五センチ程の小型の魔法陣を五十個ほど作り、空に飛ばし、観客の頭上にランダムに並べる。
魔法陣に埋め尽くされた空中に対し、観客がざわめくが、見所はここじゃねぇぞ。
魔法陣を五十個程度作り出すなんて、スキル持ちならあくび同然の難易度だろう。
魔法は全部、耳や首の振りで指示。
照明魔法を極々小さくして、トコトコと歩く足跡に沿わせて、粉のようにまぶす。
俺の周りを舞う黒い結晶は美しく、足跡に照らされ、角度ごとに光が変わる。
音楽が楽しげなテンポへ変化すると同時に、ピョン、と飛翔して魔法陣の上に乗った。
すると魔法陣はポンッ! ポンッ! と小さな破裂音を奏で、火花を散らせる。
俺の乗った後が一瞬、明るくなった。
結晶が火花とともに遊んでいるようだ。
クックック。これはな、罠の魔法陣をほんの少しの威力にしてるんだぜ。
(闇、暗霧)
ポンポンと楽しげな音と闇の結晶がぶつかるシャラシャラとした音を連れ、客の頭上を跳ねながら、詠唱。
前足や後ろ足で器用に飛び跳ねる俺は、真っ暗な霧を呼び、それを天井に撒き散らして歩いた。
シャラシャラ、ポンポン。
薄暗い場内に輝く、黒く透き通った装飾と、音響に合わせて広がる幻想的な空間。
高難易度魔法、と言われるものを惜しげもなく同時に使用して作り出す世界は、我ながらなかなかのものだろう。
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