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七皿目 ストーキング・デート
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しおりを挟むなかなかに栄えているのか、たくさんの魔族でごった返していた奇術館の会場。
その人混みに流された俺は、キョロキョロしている間に、リューオと逸れてしまった。
ちょっとしたコンサート会場ぐらい広さのある劇場なので、下手に追いかけても余計な時間を食うだけで、席に座れなくなってしまう。
公演が終わってここから出れば、退場客の中できっと見つかるだろう。
そう考えて、とりあえず空いていた席に座ったのが、運命的な出会いを運んだらしい。
隣に座っていたいつぞやか拾った栞の持ち主だという男──ゼオと話が合い、一緒に奇術ショーを見ていた。
(流石に隣に居た男が城仕えの魔族だとは思わなかったな……)
素敵な出会いは出会いだが、内心は気が気でなかったと息を吐く。
どこかで俺とニアミスしているかもしれないし、アゼルの結婚相手と言うことで、名前ぐらいは知られていそうだ。
偽名を使って詳細もぼかしたのだが、怪しまれているような空気を感じた。
密かに焦っていたけれど、ゼオは深く掘り下げなかったので、なんとかなったぞ。
魔王の伴侶、イコール人間。
これはアゼルが最初にした、俺に手を出さないように認めさせる活動によって、周知されているからな。
俺は胸の内でほっと息を吐き、華々しく開始を宣言した舞台上の司会に拍手を送った。
初めて見た奇術ショーは、まさに圧巻の一言だった。
映画館や遊園地がなくても、魔法を使った娯楽なんて、現代ではありえない。
この世界でも、人間国ではそうは見れないようなもの。
魔族の集まる魔界だからこその、不思議が織り成すエンターテイメントだ。
鬣が炎である炎獅子の水の輪くぐりは、天井から十の水の輪が吊り下げられていた。
頭の上を走り回る獅子に、俺はハラハラドキドキと胸を躍らせる。
動く雪だるまことジャックフロストによる氷像造りは、繊細な芸術品。
瞬く間に粉雪の中に佇む美女の氷像が現れ、感嘆の息が漏れた。
セイレーンとマーメイドの合唱は耳を奪われてしまい、しばらく夢心地から帰ってこられなかったくらいだ。
言うまでもなく、魅了の状態異常である。
海で出くわせば船乗りが面舵いっぱいに逃げ出すのも、無理はない。
ドッペルゲンガーの一人演劇もよかったし、ドライアドは舞台上から天井までの花畑を作り出した。素晴らしい。
魔法だなんて信じられないくらい濃厚な草木の香りが鼻腔をくすぐり、春風のそよぎを感じる。
どれもこれも、攻撃としてはちっとも威力のないものだ。
けれど姿かたちが様々な魔族の視線に同じものを追いかけさせるとは、上位魔族に負けず劣らずの強者だろう。
魔界では総合的な強さを重視する。
基本的には魔力量、種類、力、技術、知識や地位と、わかりやすいものだ。
しかし料理が上手いやら、歌が上手いやら、度胸があるやら、目に見えないものも強さとして認めている。
正しく〝強さが全て〟な世界に、俺の胸は熱を増すばかりだ。
演者はすべからく自分の能力をよく理解し、うまく魅せている。
いやはや、本当に余すところなく見ごたえのあるショーだった。
顔にはさほど出てないかもしれないが興奮気味の俺は、パチパチと拍手喝采。
次はなにが始まるのだろうか、と舞台を一心に見つめる。
するとピクリともせず無表情のまま静かにショーを見ていたゼオが、不意に声を発した。
「次から、一般参加の演目ですよ。こっちは毎回出演者が変わるので、一発屋から玄人の魔法使いまで、ピンキリですね」
「そうなのか? それはそれで、楽しみだ。ここまでのショーだけでも、俺たちの席が舞台から遠いのが悔やまれるくらい、素晴らしい出来だったからな……」
ふむ、と頷く。
俺たちの席は正面だが、舞台からは少し遠かった。
なので演者は豆粒サイズだ。
なにをしているのかはわかるから、見る分には構わない。
「チケットの元が取れる完成度なので……ここからは、まぁ、街中の大道芸人をタダ見するようなものですよ」
素っ気なく返答するゼオは、プロの奇術師の技を見ていた時より、どことなく浮ついているような気がした。
(表情が変わらないので読みにくいが……たぶん、予測できない刺激があるほうが、好みなんだろう)
たまに来てもそこまで代わり映えのしないらしい、奇術師たち。
それより、どんな演技が始まるのかがわからない一般参加のほうが、楽しみなのかもしれないな。
俺は薄暗い会場の中で口元をゆるめ、ゼオから視線を外し、前を向く。
「そうだな。想像もしない楽しい出来事が起こると、少し多めにドキドキする。ゼオとの出会いも、そうだからな」
「……。……」
──ゼオがなぜか「無自覚タラシだと言われていますよね」と、俺の呼び名を断定したのは、御遠慮したい予想外の出来事であった。
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