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七皿目 ストーキング・デート

12(sideゼオ)

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 ──その日。

 陸軍長補佐官──ゼオルグッド・トードは、街に繰り出し、今週の休日を満喫していた。

 冷淡で塩っけの強い性格をした彼だが、インドア派ではない。

 むしろアクティブ派で、やりたいことは思い立ったら一人でなんでもやってしまうタイプである。

 好奇心も旺盛で人にどう思われようが特に気にしない、ゴーイングマイ・ウェイ。

 現代でいうならば、一人で夢の国を二泊三日のプランで満喫し、耳まで付けてあのネズミとツーショットを撮るような男だ。

 ゼオは巷で噂が賑わっていたジャンクフード店で胃に重たい朝食を取り終えると、あれこれとやりたいことを思い浮かべ、城下街をぶらつく。

 そして唐突に奇術でも見て、自分の魔法制御のヒントにでもしようと思った。

 思いつきに従って奇術館へやってくることは、ままあることだ。

 魔族らしく、自由であるのはいいことだろう。細かい種族的性質としては異質なのだが。

 チケットを購入したゼオは一人、空いている席を見つけて開演を待つ。

 すると、隣の空いていた席に誰かが座る気配を感じた。

 薄暗い為よくは見えないが、シルエットと朧気に把握した様相で、鬼族の男だとわかる。

 プライドの高いあの鬼族か。
 自分の種族と鬼族は気が合わない。

 存在を認識したと同時に、ふと、いつの日か書庫で嗅いだ不思議な香りが、鼻孔をくすぐった。

「?」

 魔族がひしめく混沌とした会場。
 しかし、香りがどこへも散らない。

 ゼオは改めて、隣の席に座った男を横目で伺った。

 柔らかそうな黒い髪だ。額に二本の細い角が生えている。滑らかそう。

 服装はグレーのマントに、なんの変哲もない一般的な普段着だ。

 涼やかで意志の強そうな澄んだ瞳がステージを見つめ、安穏と開演を待っていた。

「……すみません、あなたは魔王城にお勤めの方ですか?」
「? ええと……?」

 耳に触りのいい、少し低い声だ。

 不審そのものな声のかけ方だったのに、彼には嫌悪の色はなく、誰だろうという疑問だけがある。無防備だな。

「あぁ……怪しい者ではないですよ。俺はゼオルグッド・トード。城に仕えていまして」
「なるほど。俺はシャ、……シャ、シャウルー・ウォーカーだ。確かに普段は城にいる。シャルでいい」
「では俺はゼオと」

(いる、か)

 少し言い回しが気になったので、ゼオは不法入国者かと訝り、目を細める。

 面倒だが、不審人物を放ってはおけない。
 普段は街を守っている陸軍としての立場上、特に、だ。

 だが他国や闇組織の間者にしては、偽名の名乗り方が今しがた考えたような、覚束無い言い方だった。

 魔王城のお膝元に侵入したとすれば、詰めが甘い。綻び過ぎだ。

 それに城にいるなんて、城仕えだと名乗ったゼオに対して、無防備の度を越すだろう。

 そもそも魔界を狙う者ならば、陸軍長補佐官の名前を知らないのも、やり口が生温い。

 諸々の理由を瞬き一つ分思考したゼオは、違和感を気に留めて置くだけにした。

 有り体にいえば、オフにまで仕事をしたくない。

 ただでさえスケコマシ長官のせいで、普段の業務に書類仕事が増えているのだ。

 居丈高で横柄に見える魔王が自由裁量権を与えてくれていても、時には手を振るうのがめんどう、という時がある。

 危険でないなら、過剰に反応しないでおきたかった。



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