本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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七皿目 ストーキング・デート

11(sideアゼル)

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 コソコソするのをやめ、あえて胸を張って堂々と後をつける。

 案の定、周りはあまり気にした様子がない。完璧だ。

 小さい魔族が「ワンちゃん!」と言ったが、母親らしいものに「よその子だからだめよ」と窘められている。

 道行く他の子どもも俺にじゃれつくこともなく、俺はノーマルに紛れられていた。

 魔王様の安心安全セキュリティは、つつがなく履行中。

「お! ここなんてどうだッ? こっちにはまだ映画なんかねェしな」
「奇術館か……マジックショーだな。うん、いいと思うぞ」

『? ……まじっくしょー?』

 二人が歩みを止めた舘の前で話す内容に、聞きなれない言葉を見つけ、首を傾げる。

 シャルたちの言う〝えーが〟や〝まじっくしょー〟は、覚えがなかった。

 魔界の奇術館とは、だいたい生活と戦闘に使う魔法を、人に見せる為に使う変わった舘のことだ。

 威力を抑えたり光量を強めたり、普段とは逆に作用する魔力制御の技術が必要で、難易度は高い。

 専門の奇術師がいるくらいだ。

 昔は城にお抱え奇術師がいたらしい。それだけ愉快な技なんだろう。

 なんにせよ、シャルが行くなら移動型セキュリティである俺は、どこまでもついて行くべきだ。

 チケットを二枚買って館に入っていく二人に遅れないよう、俺はいそいそと走る。

 中に入ろうとして、チケット売り場のトレント魔族に、肉球をポンと見せつけた。

『狼一枚』
「んん? コイツ、流暢に喋るなぁ。けどいくら賢くても、魔物は入れん。飼い主同伴でもダメだぜ~」
『なっ、なに!?』

 しかしここに来て、魔王様である俺は、決まり事と言う壁に打ちのめされてしまったらしい。

 枝の手をワサワサと動かす受付けに、耳をピンと立てる。

(じょ、冗談じゃねえ。こんな薄暗い舘の中で魔族がひしめき、素晴らしい見世物を見ようなんて……いかがわしすぎるだろ!)

 絶対にイチャつくに決まっているのだ。

 桃色展開が始まったら、コトである。ふざけんな。始まってからじゃ遅い。

 もしくはうっかり薄暗さに躓いてしまい、そのへんのやつと、こう、悪いそんなつもりじゃ、いや俺こそ、と。

 シャルがそんな展開になったら、誰がそいつを切り刻むんだ。俺しかいねぇだろ。

『か、金はある、なんとかしてくれ! 俺は事故が起こらねぇように見守らねぇとだめなんだよ!』
「ダメなもんはダメさね。オーナーがおっかねぇんだわ。なんせ火竜の魔族だからさ」
『ぐぬぬ……火竜如き一分で輪切り……じゃあ、俺も飛び入り参加だ! パフォーマーとしてなら文句はねぇだろ?』
「うぅん、それなら一回銀貨五枚の参加費がいるけどいいかい?」
『よしきた』

 諦めきれずになんとか食い下がった俺は、なし崩し的に一般の演者として潜入することに成功した。

 シャルにラッキースケベな展開が発生するより、ずっとマシだ。

 力強く意気込み、銀貨を支払って控え室へ歩き出す。

 ちなみに俺は、奇術魔法なんてただの一度もやったことがねぇぜ。

 まぁ余裕だろ。
 魔法で苦労したことねぇからな。魔王だからな。

 うまい具合に変装もている今──ここは〝狼奇術師マオ〟として尾行を続けるのだ。



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