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七皿目 ストーキング・デート

10(sideアゼル)

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 シャルとリューオの様子を端的に表すと──手を繋いでデート(に見えるが断固違う)だ。

 それは俺が視察と称して理由をこじつけなければできなかった、高難易度クエストである。

 初城下街に浮かれた二人が浮かれたまま、逸れないようにと勢いでやっているのだろう。

 それはわかる。わかるが!

 未だに休みの日はどこかへデートへ行こう、の一言は、言えずじまいのまま。

 視察がなければお出かけにも誘えない俺にとっては、悔しさと独占欲が際限なく募る案件なのだ。

『あぁ、嫉妬の炎が熱いぜ』

 あまりの衝撃にバタンと倒れた俺は、満身創痍でよろりと立ち上がる。

 めげずに事故チューとやらが発生しないよう追いかける為、身体をブルブルと振って毛皮についた埃を振り払い、足を動かした。

 すぐに食い物の屋台へ行きたがるリューオと、雑貨の屋台へ行きたがるシャル。

 見守っているとこの二人は、だいたいシャルが折れる形で屋台市を満喫しているらしい。

 そして俺の牙が何度か剥き出しになりそうな、楽しげなやり取りを繰り広げる。

「銀細工だぞ? ユリスは光り物が好きだろう。魔族だからな」
「いーや。ユリスは銀ってより石のついたやつが好きだぜッ。銀はお前のが似合うだろ」

『ぐ、グルル……! シャルのためなら店ごと買い占めるし、なんでも似合うに決まってんのに……!』

 露店のアクセサリーから似合うものを選びあってみている時なんて、吐血しそうだったぜ。

 物陰に潜む俺の心は常に忙しい。

 露店の通りを抜けた後、二人は店舗が立ち並ぶ大通りを散策し始めた。

 大通りともなると巨人や人型ではない魔族も増える。

 交通に馬車が使われるので、市より人混みは落ち着く。

 俺は道らしい道に出たことにより、繋がれっぱなしの手が離れたことで、小躍りして喜んだ。

 許されることなら割って入って俺がしっかりと手をつなぎたかったけどな。

 シャルに内緒で着けてきた俺は、魔王城で仕事をしていることになっているので、我慢した。

 褒めてくれてもいいんだぜ?
 嫉妬深い俺にしては、我慢ができている。

 けれど人混みを抜けると、見るからに魔物体で魔物語しか話さない俺の姿は、目立つ。

 ゴホン。魔王様の魔界豆知識、リターンズの時間だぜ。

 魔界の各地に作った街は、魔王城をトップにして作った安全かつ機能的。

 要するに〝暮らしやすくて楽チンな住処〟なのだ。

 魔王城に近いほど魔力の恩恵を受けられるし設備も充実しているので、城下街は最も不自由のない街と言える。

 それ故に住民はこぞって街に住みたがるわけだが、当然敷地には限りがあった。

 という訳でその昔、魔界ルールに則って強い者が住民権を得たため、城下街の住民はそのへんの岩なら素手で割れる猛者ばかり。

 わかったか?
 それじゃあ、特別授業は終了だ。

 そんな街で人型にもなれないただのウルフが彷徨いていると、どうしても不自然ということだった。

 かと言って人型に戻ると、いくら隠れても周りの反応でバレてしまうかもしれない。

 とりわけ城下街は最初期にシャルに手出ししないよう威嚇したので、俺の扱いは心得たものだ。

 息をするように無人サークルを形成し、何事もなく背景に徹するに決まっている。

 そんなの絶対シャルにバレるだろうが。
 無人サークルの内側にいた男だぞ?

 悩み悩んだ俺は、露店で獣人用の帽子と、蝶ネクタイを買うことにした。

 頭にちょこんと乗った少し小ぶりでワインレッドのシルクハットは、狼の耳を出す穴が空いている。

 白のボーダー模様が織られた蝶ネクタイも、味があって様になっていた。

 窓に映った自分の姿は、なかなか見栄えのいい様相だ。

 ふふん、これで放し飼いの狼から、身なりのいい狼になっただろう。

 街に紛れても大丈夫なはず。
 ペットや眷属としてなら、ウルフ種は人気があるからな。


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