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七皿目 ストーキング・デート

09(sideアゼル)

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 街中をコソコソと人の足の間を縫って後を追いながら歩き、俺は道中と同じく、密やかな護衛を続ける。

 道行く魔族たちは誰かに飼われたダークウルフかなんかだと思っているようで、あまり気に留めていない。

 それをいいことに俺は、興味津々で市場を眺めているシャルたちを、完璧に忍びつつ見守る。

 耳をピンと立てて、できるだけ会話も拾う。
 思っていたより栄えていると感心しているようだ。

「スゲェ、人間国に負けねぇぐらい賑わってんなー」
「そうだな。建物の構造や品揃えはやや違うが、人間国より騒がしいくらいだ。城下街は他の街より活気があるな……」
「俺、魔界にくるまで魔族なんてあんま見なかったし、見てもすぐ討伐してたから、昔は魔物みてェな奴らだと思ってたんだよ」

 まぁ、そうだろう。
 リューオの言葉に否はない。

 人間ってのは魔族悪説が普通になっていて、絵本まで作って洗脳してるような種族だからな。

 そういう意味で、異世界から来たシャルたちは割とすんなり魔界に馴染んだ。教えられただけで、憎いわけじゃないからだ。

 それに見た目が変わらず人間より長く生きる異世界人たちは、人間より魔族に近い。

 それを知る王や貴族はこれまでの歴史だと、人ならざるものとして異世界人を嫌悪する場合もあったらしい。

(人間国の王……思い出したらムカついてきたぜ……)

 シャルがちょっと弱っていた時に教えてくれた、人間国での仕事。

 従わなければ居場所はないと言われ、裏方の汚れ仕事を押し付けられていた、足元を見られるばかりの生活。

(ぐっ、クッソもっともっと丁寧に拷問にかけて殺せばよかったぜ、人間の王ッ! あの時の俺、知らなかったとは言え生温い! 絶許……ッ!)

「ヒッ……!」
「うわ……っ!?」

 おっと。うっかり思い出しイラしてしまったぜ。

 ゴゴゴ、と威圧感を出してしまい、周りの魔族が遠巻きに距離を取ったせいで、無人サークルができてしまった。

 さり気なく見守る計画に支障が出る。
 目立ってはいけない。

 内心で慌てつつも俺は怒りを抑えて冷静を装い、ただの魔物のような表情を意識し、その場から逃げ出した。



 そしてしばらく後。
 俺は──魚屋の空マグロを買い占めていた。

『これを全部くれ』
「ペン? 買い物をするなんて賢いウルフだペン~。主人にお金は貰っているペン?」
『あぁ、問題ねぇぜ』
「ペッペン!?」

 ペンギン店主にジャラジャラと金貨を一山渡すと、店主は驚いて飛び上がる。必要な分を差し引き、在庫を全部売ってくれた。

 フッ、魔物じゃなくて魔族の形態変化なんだが、それを言うとややこしいかんな。

 策士な俺はシャルがあんなにキラキラウキウキしていた空マグロをたっぷりとゲットして、素知らぬ顔でプレゼントする魂胆である。

 正直俺は食ったことねぇけど……シャルが気になってるって言ってたんだ。買わない手はねぇぜ!

 プレゼントを手に入れてホクホク顔の俺は、上機嫌だ。
 シャルの笑顔を思うと浮かれざるを得ない。

 だがしかし。
 匂いを辿って追いかけた先で、ぽかんと目を見開く。

 なぜかクソ勇者に手を引かれ、じゃれ合いながらミノタウロスの串焼きを食べるシャルの姿を目撃し、バターンッと卒倒した。

 近いッ! 距離がッ!



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