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七皿目 ストーキング・デート
04
しおりを挟むリューオは俺の手から小瓶を受取り、説明を聞いてふぅんと興味深そうにチャプチャプと薬を揺らす。
それからなんの躊躇もなく、グイッと一気に飲み干した。
悪いものではないんだが、ちょっとも警戒しないのか。相変わらず豪胆だ。
だが、すぐにべーっと舌を出して苦虫を二、三匹噛みつぶしたように顔をしかめた。
「グぁッ!? うぇっマッズゥ……ッ! 例えるならうっかりしまい忘れて一日常温放置した開封済みの豆乳みたいなエグみだぞこれェ……ッ!」
「そうなのか? 俺は放置した豆乳を飲んだことがないから想像つかないな……」
「アホかよ、例えだっつってンだろッ! って、うわ、なんか痒い……? いや、なんかキモい……?」
薬を飲んだ後口元をゴシゴシ拭い、憤慨していたリューオが、身体をペタペタ触って首を傾げ始める。
俺が驚いて目をぱちぱちとさせている間に、リューオの額から二本の角がメキメキ生え始めた。
親指くらいの角だが、痛くないのか……?
そして耳がにゅっと伸びて、尖る。
痒い痒いと文句を言うリューオの口から、犬歯にしては大きな牙が伸びてきた。
アゼルの牙よりずっと大きく、唇からはみ出ている。
更にシャツの隙間から覗く肌にまとわりつくように浮かび上がった、黒い入れ墨のような文様。
ちょこちょこと染め直している金色の髪は赤くなり、ツンツンしたままだが伸びている。
爪も鋭く伸び、ただでさえ凶悪な顔つきのヤンキーなリューオが、ヤのつく職業人のような厳つさを手に入れた。
これは……いわゆるオーガだな。
もともと大きな身長が、更に一回り大きくなった気もする。
服がパツパツしなくてよかったな。
俺は痒みが収まってキョロキョロするリューオに、拍手を送った。
「凄いな……おめでとう、リューオ。どこからどう見てもオーガだ。ナイス変装だぞ」
「いや見えねぇしマジで大丈夫かこれッ? 後で元に戻ンのかよ」
「大丈夫だ。たぶん」
「たぶんっつったテメェッ!?」
うう、だって俺も使うのははじめてだからな。保証はできない。
そう言うと、リューオは俺の手から薬を奪って「異世界まで一緒に来たンだ。人間やめる時は、テメェも一緒だぜッ!」と悪役そのものの形相で、俺の口に小瓶を突っ込んだ。
味覚にギガインパクト。
薬の味は、非常にまずかった。
そうか。これが開封済みの常温放置した豆乳の味か……勉強になった。
「ん、んん、あっ痒い、確かに痒い」
「うわ、ブックッハハハッ! マジでなんか生えてきてやんのッ! 見てる分には面白えなァ~」
「痒い」
小さい虫が皮膚の下を這い回っているような痒みに、困った顔でもぞもぞする。
身じろぐ俺を、リューオは指差して愉快そうに笑った。
なんてやつだ。
鬼らしいといえば鬼らしい、のか?
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