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七皿目 ストーキング・デート
02
しおりを挟むそうしてしばらくシンキングタイム。
その隙に俺の三倍食べるアゼルの三倍の茄子を、唸るアゼルにまぁまぁと言いながら追加で食べさせ終わる。
頭を抱えていても「ほら、あーん」と言うと口を開けるものだから、楽しくなってきたところだった。
全ての茄子を食べ終えたアゼルは、渋い表情で顔を上げる。
「んぐ、……た、例えばだぜ?」
「ん?」
「行くなと言ったら?」
行くなと言ったら。
……それは、行かないことにするしかないな。
別に反対を押し切って悲しませてまで、下見に行こうとは思わない。
だがアウェイの魔界にあって俺が手を引いて歩くデートは、初見の街ではなかなか難しいだろう。
ちょっと残念な気持ちではあったが、しょんぼりとしつつも俺はすぐに答えた。
「行かないぞ」
「うぁ……わかった、行ってこい……!」
ん? なぜか許可が出た。
アゼルはしょんぼりしていた俺にさぱっとゴーを言い渡し、ぐぐぐと複雑そうに睨んでいる。かなり不本意そうだが。
決め手はわからないが、悩んだ末に良しとけつろんづけたようだ。
俺は許可してくれたアゼルが狭小住宅の心を頑張ってほんの少し広げたのだと察して、ほっこりと嬉しくなった。
自分のテリトリーである魔王城から俺を出すのを非常に嫌がっていたのに、これは凄い進歩だ。
「ありがとう。日が暮れる前には戻るからな」
「当たり前だ。いいか? 知らない人についていくなよ。変なものは食べるんじゃねえぜ。それから、ほら。いくらか渡すから好きに使え。後でなにに使ったか報告しろよ」
「お母さん、財布ごと渡すのはよしてくれ」
ズズイと差し出される丸ごとの財布に、俺は胸の前でバツを作って拒否する。
アゼルは幼児に言い聞かせるように真剣に下見のルールを言いつけながら、召喚魔法で取り出した財布をお小遣い感覚で差し出したのだ。
こら、首を傾げるな。
おかしいのはその金銭感覚だぞ。
ただ下見に行くだけなのに重量感のある財布を差し出されて、受け取る俺ではない。
ただちょっとだけ擁護するなら、アゼルは魔王になってからお金を持ち出したので、自分のお金を使うということがあまりなかった。
そのせいか、貯まり貯まった数十年分のポケットマネーが、膨れ上がっている。
それ故に一般的な魔族の収入も物価も知っていても、自分の財産はどんぶり勘定。
セレブ買いが基本なのだ。
なんでも受け入れると思われがちな俺だが、これだけは断固拒否している。
アゼルは節約がな……下手くそなんだ。
使うか使わないかで、欲しいものは全てというタイプだからな。
ちなみに魔界の財布は現代で言う中世かその後くらいの物だ。
巾着のような袋にまとめておくのが普通である。バラけなければいいという感覚らしい。
金の刺繍が入ったA4サイズの濃紺の布袋にパンパンの金貨を渡されれば、そりゃあこのアンポンタン! とデコピンの一つも御見舞したくなるものだろう。
大体金貨一枚一万円だと思ってほしい。
ぱっと見積って百万は超えている。
これは野良魔族が切り詰めれば、一年はゆうに暮らせる金額だ。冗談でも凄まじい。
「くっ、このアンポンタンめ」
「なんで怒られた俺」
やはりデコピンをお見舞せねば! と額に指をピシッと当てたが、アゼルはノーダメージで、なぜ怒られたのかもよくわかっていなかった。
悔しくなんかないぞ。
いいんだ。俺のデコピンが魔族に通じた試しがない。
(……今度から腕立て伏せのメニューを変えて、指立て伏せにするか)
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