上 下
361 / 901
七皿目 ストーキング・デート

02

しおりを挟む


 そうしてしばらくシンキングタイム。

 その隙に俺の三倍食べるアゼルの三倍の茄子を、唸るアゼルにまぁまぁと言いながら追加で食べさせ終わる。

 頭を抱えていても「ほら、あーん」と言うと口を開けるものだから、楽しくなってきたところだった。

 全ての茄子を食べ終えたアゼルは、渋い表情で顔を上げる。

「んぐ、……た、例えばだぜ?」
「ん?」
「行くなと言ったら?」

 行くなと言ったら。
 ……それは、行かないことにするしかないな。

 別に反対を押し切って悲しませてまで、下見に行こうとは思わない。

 だがアウェイの魔界にあって俺が手を引いて歩くデートは、初見の街ではなかなか難しいだろう。

 ちょっと残念な気持ちではあったが、しょんぼりとしつつも俺はすぐに答えた。

「行かないぞ」
「うぁ……わかった、行ってこい……!」

 ん? なぜか許可が出た。

 アゼルはしょんぼりしていた俺にさぱっとゴーを言い渡し、ぐぐぐと複雑そうに睨んでいる。かなり不本意そうだが。

 決め手はわからないが、悩んだ末に良しとけつろんづけたようだ。

 俺は許可してくれたアゼルが狭小住宅の心を頑張ってほんの少し広げたのだと察して、ほっこりと嬉しくなった。

 自分のテリトリーである魔王城から俺を出すのを非常に嫌がっていたのに、これは凄い進歩だ。

「ありがとう。日が暮れる前には戻るからな」
「当たり前だ。いいか? 知らない人についていくなよ。変なものは食べるんじゃねえぜ。それから、ほら。いくらか渡すから好きに使え。後でなにに使ったか報告しろよ」
「お母さん、財布ごと渡すのはよしてくれ」

 ズズイと差し出される丸ごとの財布に、俺は胸の前でバツを作って拒否する。

 アゼルは幼児に言い聞かせるように真剣に下見のルールを言いつけながら、召喚魔法で取り出した財布をお小遣い感覚で差し出したのだ。

 こら、首を傾げるな。
 おかしいのはその金銭感覚だぞ。

 ただ下見に行くだけなのに重量感のある財布を差し出されて、受け取る俺ではない。

 ただちょっとだけ擁護するなら、アゼルは魔王になってからお金を持ち出したので、自分のお金を使うということがあまりなかった。

 そのせいか、貯まり貯まった数十年分のポケットマネーが、膨れ上がっている。

 それ故に一般的な魔族の収入も物価も知っていても、自分の財産はどんぶり勘定。

 セレブ買いが基本なのだ。

 なんでも受け入れると思われがちな俺だが、これだけは断固拒否している。

 アゼルは節約がな……下手くそなんだ。
 使うか使わないかで、欲しいものは全てというタイプだからな。

 ちなみに魔界の財布は現代で言う中世かその後くらいの物だ。

 巾着のような袋にまとめておくのが普通である。バラけなければいいという感覚らしい。

 金の刺繍が入ったA4サイズの濃紺の布袋にパンパンの金貨を渡されれば、そりゃあこのアンポンタン! とデコピンの一つも御見舞したくなるものだろう。

 大体金貨一枚一万円だと思ってほしい。
 ぱっと見積って百万は超えている。

 これは野良魔族が切り詰めれば、一年はゆうに暮らせる金額だ。冗談でも凄まじい。

「くっ、このアンポンタンめ」
「なんで怒られた俺」

 やはりデコピンをお見舞せねば! と額に指をピシッと当てたが、アゼルはノーダメージで、なぜ怒られたのかもよくわかっていなかった。

 悔しくなんかないぞ。
 いいんだ。俺のデコピンが魔族に通じた試しがない。

(……今度から腕立て伏せのメニューを変えて、指立て伏せにするか)



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...