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六皿目 純情変態桃色魔王
35(sideアゼル)
しおりを挟むまぁいちいち言わねぇけど、今いる幹部はみんなできた奴らだ。
俺を怖がったり淘汰したり馬鹿にしたりしない。変なことをしたら、遠慮なく言ってくる。
別にそれが馬鹿にしてるわけじゃないってわかるくらいには、俺も人のことがわかるようになってきた。
ライゼンが淹れてくれた紅茶を飲むと、なんとなく思い出す。
昔のことだ。
あの時は確か、フォークの使い方がわからなかったんだよな。
テーブルマナーの本は魔境にはなかったし、飾りかなにかだと思って、普段通り手で食べたんだ。
給仕の視線がどうも居心地悪いとは思ったが、なにが駄目なのかわからなかった。
すると次からフォークもナイフも用意されなくなったため、俺はなんとも思わず、手で食べ続けたのだ。
それはお察しのとおり嫌がらせだったわけだが……おかげで貴族連中との会食で、見事に恥を晒すハメになった。
そんな記憶があるので、今でもあまり誰かと食事をするのは好きじゃない。
負けん気と気合いで学んだため今は問題なく食事ができるが、それとこれは違う。
今の俺はだいたい毎日シャルと食事をする。
それを気にしたことはない。
むしろ楽しくて幸せで、至福の時だ。
食事は、信頼するやつとしかしない。
心臓を刺されたこともあるのに、刺されてなくてもそれよりずっと胸が痛いんだぜ。
それも今は、どちらかというとドキドキしすぎて胸が痛いばっかりだ。
俺は結構、アイツの攻撃にはやわらか魔王な気がする。
閑話休題、と。
愛しのシャルのことを考えて、ふんふんと機嫌よく紅茶を飲んでいると、マルガンがビシッ! と俺とライゼンを指差してゼオに駄々をこね始めた。
「ちょっ、あれ見てみ!? 同じサボり犯に対して片や紅茶を差し入れる補佐官! 片や氷漬けにして頭を破裂させる補佐官! おかしくね!?」
「そういうことは口答えする前に目の前の書類全てに目を通して、サインしてから言ってださい。俺は無駄が嫌いなので」
「ヒッ、いやぁぁだぁぁ~! 女の子! せめて女の子連れてきてくれなきゃ頑張れないよぉぉ~!」
「チッ。仕方ないですね……」
騒がしく駄々をこねるマルガンに、ゼオはピクリとも表情を変えず、ゆるりと近づく。
その瞬間──俺の第六感がキュピンと危険を察知した。
「んじゃあ俺ァ空軍基地に帰るぜ」
同じく第六感が警鐘を鳴らしたのだろうガドが、さっさと執務室を出て行く。
呆れたライゼンは空のカップを下げて、俺の執務室から繋がる自分の執務室へ、逃げて行った。
ほら見やがれ。
今いる幹部は、できた奴らだ。
「結界」
先を予知して机ごと俺を包むサイズの魔法陣結界をフォン、と出現させる。
コトが済むまで、俺は今日の晩ご飯について考えることにした。
今日はすこぶるいい日だかんな。
帰ったらまずはシャルの血を貰って、イチャついて、それからゆっくり二人で飯を食う。
「え、ゼオ? ゼオにゃ? なんでそこ持っちゃうの? ま、まってまってやめてそこっ! のんのんっ!」
「仕事するのに必要なのは、女の子でしたっけ?」
そうだな、メニューは赤身肉にするか。
なんかシャルが精力剤を気にしていたからな。
まだ全然だと思うけど、効果があっても悪くねぇ。夜の行為はたくさんできるに越したことはない。
「氷、弾け飛べ」
パァンッ!
「アーーーーッ!?!?」
第六感、的中。
ゼオの一言で氷漬けになったマルガンの下半身のアレが弾け飛び、結界にビシビシと赤い氷が当たった。
響き渡るのは、スケコマシの悲鳴だ。
痛覚がない不死身のマルガンにも、ばっちり心にダメージがある箇所だった。
「女の子になったでしょう?」
それじゃあ仕事しましょうか、と何事もなかったかのように書類の束を差し出すゼオは、正真正銘鬼畜である。
ま、俺が行った時から既にサボり中で、別れてからもサボってたサボり魔には、あれくらいやんねぇとな。
「汚え花火だぜ……」
恋愛マスターの晴れ姿を見届けて、俺はウキウキとディナータイムを心待ちに、純な心で残りの仕事を終わらせにかかった。
六皿目 完食
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