本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
上 下
325 / 901
六皿目 純情変態桃色魔王

11

しおりを挟む



「フフン。どうだ、シャル。この俺になにか言うことがねえか?」

 いいや、アゼル。

 ドヤ顔でそう言いながら期待たっぷりにわくわくされても、その格好のコンセプトが俺には全くわからないぞ。

(ん、んん……? ん、なるほど。わかったぞ)

 俺はうぅん、と腕を組んで悩んでからようやくなにを求められているのかがわかり、ポンと手を打った。

「俺の子か。何ヶ月だ?」
「馬鹿野郎!」

 なんだって。

 ぺしん! とアゼルは膨れた腹部を叩いて、俺の返事に否を唱えた。

 むむ、そういう冗談じゃないのか。
 んんと、ならなんの遊びなんだ?

 ガルル、と唸り声を上げるアゼルの耳がキュッと後ろに倒れて、なんだか和む。

 祖母の家の犬も俺がうっかり尻尾を踏むと「怒ってますよ」と言いたげに唸りながら、耳を倒していた。

 俺はアゼルがなんとなくその犬に見えて、ふふふと笑いながら「おいで」と声をかける。

 アゼルはむくれていても素直に身をかがめてきたので、ほぼ無意識だが、犬を相手取るようにワシャワシャと柔らかな髪をなでてしまった。

「なんの遊びかわからないが、お腹に詰物をすると服が伸びてしまうぞ。いいこだから、それはやめたほうがいい。な?」
「…………」

 俺が頭をなでながらそう言うと、アゼルはガチンッと固まって黙り込んだ。

 けれど凄い勢いで尻尾を振っている。
 それはもうブンブンブンブンッ、と振っている。

 まるでスペシャルおやつを貰った時の祖母宅の犬のようだ。かわいいな。

 ワンコを彷彿とさせる様子からますます久しぶりに故郷の愛犬と戯れるような気持ちで、機嫌よくアゼルのフワサラの髪をなで続ける。

「アゼルはいいこだ」
「ん」

 なでながら褒めると、ぽすん、と温かいバスタオルを渡された。

 なるほど、それを腹に詰めていたのか。
 渡してくれたのは、服が伸びると言ったからだろう。後で洗濯カゴに入れよう。

 すっかり大人しくなったアゼルは俺になでられながら、シワになった服をポンポン叩いて、キュッと綺麗に伸ばす。

「うん、偉い」

 途端ブンブンブンブンッ、と尾が揺れる。

 仏頂面で眉間にシワを寄せつつもガチガチに固まるアゼルの代わりに、そよ風を吹かせそうな勢いでふりしきる尻尾。

 尻尾があるとツンデレなアゼルが本当はイエスなのかノーなのか、わかりやすい。便利である。

 しかしよく考えてみると、アゼルはまだ仕事の時間の筈だった。

 なにがしたかったのかは全くわからないが、あまり休憩を奪っても可哀想だと気づき、俺はなでていた手を下ろす。

「まだ就業時間だろう? ちゃんと帰りを待っているから、もう行っておいで」
「ん」

 アゼルは仏頂面のままだったが、行ってらっしゃいを言ってもらえて、ご機嫌の模様。

 フリフリと嬉しそうに機嫌よく尻尾を振り、部屋を出て行った。

(ふむ。結局なにがしたかったんだ?)

 よくわからないが、かわいかったのでよしとしよう。
 俺のアゼル判定は甘々である。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...