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六皿目 純情変態桃色魔王

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「フフン。どうだ、シャル。この俺になにか言うことがねえか?」

 いいや、アゼル。

 ドヤ顔でそう言いながら期待たっぷりにわくわくされても、その格好のコンセプトが俺には全くわからないぞ。

(ん、んん……? ん、なるほど。わかったぞ)

 俺はうぅん、と腕を組んで悩んでからようやくなにを求められているのかがわかり、ポンと手を打った。

「俺の子か。何ヶ月だ?」
「馬鹿野郎!」

 なんだって。

 ぺしん! とアゼルは膨れた腹部を叩いて、俺の返事に否を唱えた。

 むむ、そういう冗談じゃないのか。
 んんと、ならなんの遊びなんだ?

 ガルル、と唸り声を上げるアゼルの耳がキュッと後ろに倒れて、なんだか和む。

 祖母の家の犬も俺がうっかり尻尾を踏むと「怒ってますよ」と言いたげに唸りながら、耳を倒していた。

 俺はアゼルがなんとなくその犬に見えて、ふふふと笑いながら「おいで」と声をかける。

 アゼルはむくれていても素直に身をかがめてきたので、ほぼ無意識だが、犬を相手取るようにワシャワシャと柔らかな髪をなでてしまった。

「なんの遊びかわからないが、お腹に詰物をすると服が伸びてしまうぞ。いいこだから、それはやめたほうがいい。な?」
「…………」

 俺が頭をなでながらそう言うと、アゼルはガチンッと固まって黙り込んだ。

 けれど凄い勢いで尻尾を振っている。
 それはもうブンブンブンブンッ、と振っている。

 まるでスペシャルおやつを貰った時の祖母宅の犬のようだ。かわいいな。

 ワンコを彷彿とさせる様子からますます久しぶりに故郷の愛犬と戯れるような気持ちで、機嫌よくアゼルのフワサラの髪をなで続ける。

「アゼルはいいこだ」
「ん」

 なでながら褒めると、ぽすん、と温かいバスタオルを渡された。

 なるほど、それを腹に詰めていたのか。
 渡してくれたのは、服が伸びると言ったからだろう。後で洗濯カゴに入れよう。

 すっかり大人しくなったアゼルは俺になでられながら、シワになった服をポンポン叩いて、キュッと綺麗に伸ばす。

「うん、偉い」

 途端ブンブンブンブンッ、と尾が揺れる。

 仏頂面で眉間にシワを寄せつつもガチガチに固まるアゼルの代わりに、そよ風を吹かせそうな勢いでふりしきる尻尾。

 尻尾があるとツンデレなアゼルが本当はイエスなのかノーなのか、わかりやすい。便利である。

 しかしよく考えてみると、アゼルはまだ仕事の時間の筈だった。

 なにがしたかったのかは全くわからないが、あまり休憩を奪っても可哀想だと気づき、俺はなでていた手を下ろす。

「まだ就業時間だろう? ちゃんと帰りを待っているから、もう行っておいで」
「ん」

 アゼルは仏頂面のままだったが、行ってらっしゃいを言ってもらえて、ご機嫌の模様。

 フリフリと嬉しそうに機嫌よく尻尾を振り、部屋を出て行った。

(ふむ。結局なにがしたかったんだ?)

 よくわからないが、かわいかったのでよしとしよう。
 俺のアゼル判定は甘々である。



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