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六皿目 純情変態桃色魔王

12(sideアゼル)

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 バタン、と部屋の扉を閉める。

 部屋を出た俺はニヤけるのを我慢し過ぎて険しくなっていた表情を、にへら、と緩めた。

「褒められたぜ……!」
「あんね? 魔王様。お腹の中身取られて特にドキドキさせることもなく、ワンコちゃん扱いされただけだったんだケド!?」
「あぁん!?」

 だが胸いっぱいに愛を補給してもらい大満足の俺に、ガビンとツッコミを入れる声。

 上司の勇姿を見届ける為にこっそり覗いていたマルガンのダメ出しだ。

 最もらしいダメ出しをくらった俺は、ハッ! と我に返って頭を抱える。

(し、しまった……ッ!)

 この姿によって「見事なたるみ腹じゃないか。触ってもいいか?」ぐらいは言われる予定だったはずが、この結果だ。

 詰物が即バレした挙句、シャルに遊んでいると思われてしまった。

(今日の俺は一味違うと思わせる予定だったってのに、シャルのなでなでが気持ちよくてホクホク上機嫌な俺で退室してしまったじゃねえか……!)

 恐るべきシャルの飼い主パワーである。あの手は魔性だ。強すぎる。

「こうしちゃいられねぇぜ!」

 危機感を覚えた俺とマルガンは、急いで作戦会議室(恋愛マスターの自室)へ、リベンジ目指して敗走した。



「取り敢えず腹は諦めるしかねぇな。肉渡しちまったし、服が伸びるからダメだって言われた。俺はイイコだからな」
「うんうん、イイコならしかたないべ~。したらどうする系?」
「他の好みのタイプを試すぞ」

 部屋に帰った俺達はやむを得ずたるみ腹を断念し、他の要望を加味した新しい作戦を考えることにした。

 腹肉だけが理想のタイプじゃねえ。
 シャルは他にも言っていた。

 確か〝小さい身長〟と〝地味な顔〟。
 そして〝厳しさ〟だ。

 まあ厳しさってのは不可能だな。
 俺がアイツに酷い仕打ちなんかできるわけねぇだろ? 常識だ。

 ただでさえ内面が男前なだけで、魔族的に言うとやわらかボディもいいとこな貧弱人間なのに、傷なんか付けたらシャルは死んでしまう。

 シャルは勇者じゃない。
 頑張り屋さんな村人Aだ。

 かわいいと言うと赤くなって「俺はかわいくないぞ」と言うだけの、魔王特攻能力持ち村人Aなのだ。

 ……うん、無理だな。
 断固厳しさは不可能だぜ。かわいいがすぎる。

(となると、後は小さい身長か。小さい身長ってどうすりゃいいんだ?)

 悩んだ俺が手っ取り早く骨を縮めようと鎌を取り出すと、待ったがかかる。

 不満顔で見返せば、マルガンは「素敵なカマーだけど流血系は人間ちゃん達って嫌がるかんね~」と言った。

 じゃあだめだ。嫌がられると俺は海に走り出すに決まってるぜ。

「なら中腰か?」
「激ダサウォークすぎっしょ?」

 しかし歩き方がダサイのもダメだ。
 カッコイイ俺しか見られたくない。

 なにかとダメな理由が出てくるもので、困った俺たちはムムム、と腕を組み代案を考える。

「そだそだ!」
「なんだ」

 しばし思考をめぐらせた末、マルガンがぽん、と手を叩きへら~と笑った。


「お妃ちゃんをだっこすればいんじゃね!? だっこ嫌いな子はいないし! 自然にボディタッチできるしお尻なでられるし! おしりだよ魔王様! だっこ最高じゃんよ~!」

「マルガン、お前……天才か」


 この瞬間。
 俺は魔王生で初めて、マルガンを心から賛えた。



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