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六皿目 純情変態桃色魔王

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 っと、閑話休題。
 長くなった。いつものことかもしれない。

 そんな経緯で今頃すっかり元通りだろう研究所の門と扉を思いつつ、俺はテーブルに座ってレシピ書を書き進める。

 これはちょっとした俺の雑記帳でもある。
 レシピを書くだけでもないんだ。

 空いている時間に作ったお菓子は作り方を書いて、魔界だとどうだったかとか、今度はどうするかとか、いろいろとメモをしておく。

 例えば、この世界のオーブンだと焼きムラができやすい、とかだな。

〝フィナンシェなんかの火力調整が難しいお菓子の時は、リューオに調整してもらうとうまくいく。〟

〝生クリームやバターが高価なので、ヨーグルトやオリーブオイルで代用してみよう。〟

 このように、なにかの役に立ちそうなことは全部書いておくのだ。

 後は、秘密のコメントも。

「んんと〝今日のアーモンドとオレンジのケーキは、なくなるのが嫌なのか、ちまちまと食べていました。やはりナッツ類が好きみたいです。私の分をじっと見ていましたが、断固拒否しました。〟……ふふふ。嬉しいな、とても」

 手元にあるライゼンさんが添えた端書を見て、クスクスと笑ってしまう。

 時たまライゼンさんの仕事を手伝っている俺は執務室へ行くこともあるが、こうして部屋に書類が届いていることもある。

 そこに、稀に俺のお菓子を食べるアゼルの様子を記したメモが、挟まっているのだ。

 俺はそのメモを見てから、レシピ書の端に秘密のコメントを書き入れる。

〝好感触。今度また作ろう。
 次はピスタチオのクリームサンド。〟

 なんでも美味いと言うアイツが、できれば特別美味いと思うモノを作ってあげたい。

 そんな秘密の男心なのである。

 お菓子作りが上達しているのは、アゼルのおかげかもしれないな。ふふふ。

 ──なんて。

 甘い想いを滲ませながら筆を走らせていると、不意にガチャ、と部屋の扉が開く控えめな音がした。

 メモをとるために伏せていた顔を上げて振り向くと、そこにいたのは、今しがた思いを馳せていたアゼルだ。

 けれどアゼルを認識したと同時に、俺は首を傾げて黙り込む。

 一応逆向きにも首を傾げ直してみる。
 しかし光景に変化はない。

 なぜか喜色満面、こちらに向かって歩いてくるアゼルの頭には、ぴょこんと立った肉厚の獣耳がある。

 今朝はなかった筈だが、急に生えたのだろうか。

 更に歩くたびにチラ見えするものは、フリフリと嬉しげに搖れる、ふさふさモフモフの尻尾。

 うん。凄くかわいい。
 是非もふもふしたい。

 が。それだけではない。

 いつも引き締まった腹部に、不自然な膨らみがある。なにか詰めているらしい。

(……? ん? んんん?)

 総合的に見てもどうにも謎で、目の前までやって来た魔王にも、全く合点がいかず。

 脳内に?をたくさん浮かべた俺は椅子に座ったまま、ポカンとその眩いご尊顔を見上げた。



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