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六皿目 純情変態桃色魔王
01
しおりを挟むあっさりとした飲み口の香りの良い紅茶に、ユリスは角砂糖を二つ、俺はなにも入れない。
彼の誘いはいつだって突然で、部屋の扉をバンッと開いて腕を掴まれたかと思えば、「今から飲むよっ!」と不機嫌に大きな瞳を吊り上げる。
甘やかす為の手土産を用意された花の絵皿にあけて、彼の研究室にて語ること──小一時間。
「アイツってば捕虜って名前だけのヒモだと思っていたのに、陸軍で働いてたなんて信じらんない! 人間ってへなちょこなんだよ!? アンタ見てたらわかるもん!」
「ん、んん……」
悪気なくへなちょこ扱いされた俺は、微妙な顔で持参した手土産のベリージャムクッキーをつまむ。
これはユリスの好物だ。
ユリスを盛大に甘やかして怒りを発散するティータイムの時、俺は甘いお菓子を作るのである。
ヤケ酒をするOLのように紅茶をグッと一気に飲み干し、ユリスは更におかわりを追加した。
さてさて。
なんの話をしているのかと言えば──リューオの話だったりする。
しばらく前に、陸軍の仕事帰りに血塗れ姿でユリスを抱きしめると酷く叱られたと言っていたリューオの話を、ユリスサイドで語られている真っ最中だ。
血塗れで抱きしめられたのだから、当然ユリスも血塗れになった。
初めはデリカシーがないことに怒っていたのだが、どうやら他にも怒りの理由があるのがわかる。
ふんふんと聞いていた俺の見解。
最終的なユリスの言いたいこととは、軍魔は危険だから人間の身では務まらないと、心配しているようだ。
軍魔家系のユリスは、父と兄の仕事をいつも見ていたからだろう。
それに陸軍の仕事を手伝っていることを知らなかったのも、不機嫌に一役買っている。
リューオに報告の義務はないが、日々好きだと言ってくる相手と言われる自分の関係にしては、素っ気ないと感じたんだな。
ユリスが俺を引っ張って何時間も話に付き合わせる時は、大抵リューオの話だ。
最近は文句を言いつつも、よく一緒にいるところを見る。
言っていることに変化はないかもしれないが、これでユリスは懐に入れた相手には世話焼きで優しい。
(そういうところがリューオと似ていると言えば、きっと怒るのだろうな……)
内心でそう呟く俺に二人の今後を決定する権利はないけれど、お似合いだと思う。
リューオは乱暴だが嘘偽りなく、ユリスも高飛車だが正面から突っかかる。
「もぉぉぉっあんのバカ、嫌! アイツの口は〝好き〟と〝かわいい〟しか言えないわけ!? 口説き文句もろくに考えられないなんて、ホント人間ってバカ!」
友人二人が幸せになればいいな、と考えていると、ようやく血みどろ事件の文句を言い切ったユリスはクッキーを摘み、ぐたっとテーブルに項垂れた。
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なの
BL
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