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五皿目 元・勇者VS現・勇者

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「ヒョロヒョロでも勝っただろう? 俺はやればできる子じゃないか?」
「フン、俺のお前がクソ勇者程度に負けるかよ。お前はこの俺を、何度も突き刺したんだからな」
「その後瞬殺だったけどな」

 過去を思い出して、今は勝ったとは言え、堂々と戦うとまだまだ自分は弱いことを心に刻む。

 日々精進だ。
 お菓子屋さんをしながらも、鍛錬を続けよう。

 アゼルは決意を固める俺を見つめて「シャル」と声をかけ、ふいっと顔を逸らした。

 首を傾げると、モゴモゴしながら手の甲で唇を押さえる。

 どうした?
 歯にクッキーでも挟まっていたのか?

 キョトンとして声をかけようとしたが、それを手で制したアゼルは腹を括ったようにふんぞり返り、腕を組んだ。

「た、戦うお前は、か……かっこよかったぜ。だからもっと、好き、になった。あれだ、あの、惚れ直したってやつだ。まぁ俺はお前が勝つってわかってたしな」
「!」

 なんてこった。
 今ならリューオの一人や二人、いくらでも相手にできそうだ。

(アゼルが俺が聞く前に褒めてくれたぞ……!)

 言葉を失う自分の目が、キラキラと水を得ているのがわかる。

 俺以外にでもなく、雰囲気作りをしたわけでもなく、ベッドの中でもなく、改まって面と向かって比較的素直に褒められた……!

 あの照れ屋でツンデレなアゼルが。
 あの勢いで嫌いだなんて言ってしまうアゼルが。

 酷い言いようだとかは言わないでほしい。

 そのぐらいアゼルはここぞと言う時にしかデレられず、普段は本当に誤魔化し誤魔化しなんだ。

 俺との結婚生活に慣れたのと、呪いで羞恥プレイをさせられたりして羞恥耐性が上がったのが効いている。

 それに泣いて抱き合った時にいろいろと暴露して、開き直ったんだろう。

 流石のツンデレワンコも、素直さが上がったようだ。

「ふふふ、ありがとう。俺ももっと、素直になるからな」

 俺はぱちぱちと拍手をして、嬉しさのあまりにへらとゆるい笑顔を浮かべてしまった。

 アゼルが羞恥に焼かれて真っ赤になるが、俺はそれに気付かずアゼルの手を取って、にこにこしながら喜びを伝える。

「俺もアゼルにますます惚れ直した。お前に褒められるのが、一番嬉しい。本当はな? カッコイイって言われたくて、勝つ為に張り切っていたんだ。……うん、凄く嬉しい」
「あぁう、う……ッお、お前は素直はもういい! お前がそうだかは余計俺は照れ死ぬんだぜッ!」
「ん? そうなのか?」
「うぅぅ格好いいからのにこにこかわいいうぅうぅ……ッ!」

 不安にさせない為にも、気持ちは余すところなく伝えていこうと、俺も素直に感謝を示す。

 するとアゼルはまたブツブツと何事か呟きながら、感極まってムギュッ、と抱きついてきた。

 それをギュッと抱きしめ返すと、アゼルの身体はより熱くなり、ホットな魔王となる。

 ──試合終了の光景は、実に和やかなノーサイドだ。

「むへへ。嬉しい」

 愛する人を抱きしめながら、今日はなんだかいい日だな、と勝者の元・勇者は笑う。

「なんッッッで、魔王は抱きついても嫌がられねェで俺はダメなんだ? わっかんねェ。なにが大違いなのかわかんねェ」

 敗者の現・勇者は理解できないと不貞腐れ、自分のほうが素直なのにとぼやくのだった。

 悩める彼の恋が一歩進むのは、もう少し先の話。


 五皿目 完食



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